【井戸尻史跡公園】混沌の首アートパフォーマンス「縄文・火と大地の記憶」を見に行く(2024.8.3)
はじめに
井戸尻考古館で夏の縄文体験が行われた8月3日夕刻より井戸尻史跡公園において密教系芸術集団「混沌の首(こんどんのくび)」によるアートパフォーマンスが行われました。
「混沌の首 / 縄文・火と大地の記憶~芸術的に狂え! まつろわぬ辺境に立て!!~」は、本年4月30日に建館50年を迎えた井戸尻考古館の建館の日記念トークイベントに続くもので、8月から11月まで行われる記念事業の冒頭を飾るものです。
昼行われた縄文体験の様子はこちらをご覧ください。
建館50年
井戸尻考古館では開館50年ではなく「建館50年」といっています。
旧井戸尻考古館は、現在地より北に位置する富士見町役場境支所(現信濃境公民館)を間借りする形で1959年(昭和34年)に開館しました。
その後考古館が手狭なったことや防火上の観点などから、収蔵庫及び考古館の建設が進められました。考古館の完成式典が行われたのが1974年(昭和49年)4月30日でした。
記念事業は「混沌の首」によるアートパフォーマンスのほかに、屋外映画会、講演会、座談会、音楽会が行われる計画です。
建館の日(4月30日)に行われたトークイベントはこちらをご覧ください。
混沌の首
井戸尻考古館の関係者、見学者など縄文ファンには馴染みのなかった「混沌の首」のパフォーマンスです。筆者もこの機会で初めて知りました。当日のパフォーマンスを見ると何か引き付けるものがありまして、芸術の幅の広さを感じたのです。
「混沌の首」のファンであればご存知のことでしょうが、ここは筆者なりにまとめてみました。
「密教系芸術集団 混沌の首」といいます。芸術集団と言っているのは、美術、文学、音楽、演劇、舞踊、映画など複数ジャンルを横断する表現によるものといいます。
また、「混沌の首」の「混沌」は「こんどん」と読みます。混沌についてカオスではなく全ての根源ととらえるのだといいます。以下に解説を転記します。
共同主宰の羅入氏は、美術家であるとともに真言僧侶の資格も持っています。京都在住で京都墨彩画壇評議員でもあるといいます。
同じく共同主宰の石川雷太氏も美術家であるとともにノイズサウンドユニットErehwonを主宰します。Erehwonのノイズサウンドはインスタレーション展示にて鉄板を叩いたのが始まりとか。
さらにダンサー神林和雄氏が加わります。
「混沌の首」のアートパフォーマンスは神林氏が舞い、「瞑想者」たちによる「動く瞑想」が繰り広げられます。動く瞑想は鐘や太鼓を打ち鳴らしながら激しく踊る「現代の踊念仏」と評されるとか。
縄文・火と大地の記憶~芸術的に狂え! まつろわぬ辺境に立て!!~
「混沌の首」のアートパフォーマンスは厳密には呪術/祝祭/儀式だといいます。
今回は、夜に火を捧げ、縄文の人々が祈り、踊り、生きて死んだ大地に立ち火を燃やし、「まつろわぬ辺境」の狼煙をあげるといいます。
ところで「まつろわぬ」とは「服従しない」という意味。地域住民の発掘から始まり従来の考古学とは一線を画しながらも研究の成果を上げてきた井戸尻の反骨精神に通じるものがあります。そして、5000年前は縄文の中心地でありながら現代では長野の県境のこの地を的確に言い当てたテーマです。
蛇がデザインされています。この辺りも井戸尻考古館や縄文と共通する部分です。「混沌の首」の皆さんは、縄文だけでなく井戸尻考古館の歴史も汲み取っておられるのかと思いました。
(1) まつろわぬ
午後5時を回った井戸尻考古館には混沌の首のファンや現代アートの関係者らしき方が集まっていらっしゃいました。駐車場の車は遠い他県のナンバーや東京のナンバーを付けた車おられるのです。
会場の史跡公園に着くと受付があります「混沌の首」のグッズの販売のほか、井戸尻考古館のイベントで配布される50周年バッヂが配布されます。
前には反原発の展示にも参加されており、メッセージ性の強いグッズも。
観客はざっと100人ぐらいでしょうか。折り畳みイスやレジャーシートを皆さん持参して思い思いの場所で待っています。
ステージ前に井桁に組んだ松明がありますが、普段の縄文関係の催しとは雰囲気が少し異なります。ステージには黒の幟旗が並んでいます。
また、ステージの向かいには「混沌の首」と書かれた大太鼓とサウンドを繰りなすセットがあります。
(2) 辺境の夜へ
午後6時15分、定刻をやや過ぎ始まりました。竪穴住居を喪屋に見立てた「古代の葬送儀礼」から始まります。
鳴り物を持った一行が竪穴住居から出てきます。先頭の白髪の女性が羅入氏、仮面と赤い頭巾装束をまとったのがダンサー神林氏、ほかにパフォーマー(瞑想者)たちが続きます。
いまから何を見せられるのだろう。ただならぬ雰囲気が漂います。行列がステージに到着すると何やら儀式が始まりました。
僧侶の資格ももつ羅入氏がを真言を述べます。瞑想者の女性は背後で火を焚いています。
続いて装束を外していきます。出てきたのは和服のような出で立ちのダンサーの神林和雄氏です。神林氏はメインダンサーであるとともに神体の象徴であったり、カミ降ろしの依代にもなるのだといいます。
一方こちらはノイズサウンドを担当する石川氏です。
ステージの一同は場所を移動し客席近くで踊り舞います。
儀式を「縄文人」がじっと見守ります。
(3) 縄文の火が上がる
松明の井桁が組んであります。その前に控えていた縄文人が二人(考古館K館長とS学芸員)、もみ切り式と言う火切り棒と板で火を起こします。
ものの1分で火が起きて、松明に移すと一気に上に向かって燃え上がります。
太鼓とドラム、ノイズなどともに燃え上がる火を囲み踊りながら、経を焚き上げるのです。
焚き上げの経は古代蓮の葉にたまった雨水で墨を磨り書いたもの
だんだんと暗くなってきました。
始祖女神像(坂上遺跡の土偶)の姿が現れました。
こちらが重要文化財、始祖女神像(坂上遺跡の土偶)です。
(4) 火は大地へと還る
場内には大音響の太鼓とノイズサウンドが流れます。ノイズサウンドは筆者の感覚ですが決して不快ではなく、ノイズといいつつも一定のリズムのようなものがあるように感じました。
続いて燃え上がる井桁の松明から「瞑想者」たちが手待ちの松明を持ち踊ります。時々客席の周りまでやってきて
時間の経過とともに松明が朽ちてきました。その間ずっとパフォーマー(瞑想者)たちは休むことなく踊り続けています。
午後9時、松明は焼け落ち、火が朽ちてくると終焉へと向かいます。
周囲はすっかり闇に包まれました。火は完全に朽ちてはないもののすっかり闇の方が支配しています。
わずかな明かりの中でステージに移動した「混沌の首」から丁重な挨拶がありました。考古館長もステージに上がり一言挨拶がありました。
最後は観客が朽ちつつある火に集まり温かみを感じて終了です。遺跡公園の夜は昼の暑さが嘘のように快適な気温になっていました。
(5) 地に還った木材
終了後、館長から燃やした木の種明かしを伺いました。井戸尻史跡公園にある復元住居を作った当時の余り材で、考古館裏の収蔵庫の脇に30年間ずっと積まれていた木材だったのです。竪穴住居用なのでクリの木です。
打合せ時に元館長が考古館に偶然来ており、木材の調達できる場所を相談すると、残っている木材が裏にあるはずだから使えや、という運びになったそうで、現館長も全く考えていなかったといいます。元館長には松明を組み上げるまでところまで協力してもらったといい、配布されたあいさつ文にも感謝の言葉がありました。
ただしクリの木は燃やしてはいけないと聞いていたS学芸員は、パチパチと火が跳ねるのでそういうことかと分かったといいます。あらぬ方向に飛び火してはいけないと水を持った考古館職員たちが緊張感を持って見守っていたといいます。
いろいろありましたが、30年寝かされていた木材は無事火になり地に還ったのでした。
混沌の首資料展
パフォーマンス実施に先立ち、井戸尻考古館に隣接する富士見町歴史民俗資料館にて「混沌の首資料展&羅入・石川雷太作品展」(2024.7.7~8.4)が開催されました。
企画展示スペースにておよそ1ヵ月展示されていました。
初めてみた瞬間は、ただならぬ雰囲気で度肝を抜かれました。
でも、このあいさつ文を読むと結構真剣。
呪装具と説明があり、装束の他に瞑想者がつける「赤覆面」「仮面」などです。
こちらは「瞑想者」のひとりが百日間写経したもの。能登半島地震被災者への鎮魂や今回のパフォーマンスの成功を祈願したもの。当日よる焚き上げられました。
鳴り物です。チェーンはノイズ効果に使うのでしょうか。
その後ろには、「混沌の首通信」という不定期刊行のZINEもあります。
焚き上げに使う呪符には「殺すな」の文字、その言葉の持つ強い力のルーツはベトナム戦争へ芸術家の反戦運動にあるといいます。現代においてもウクライナ、パレスチナ、ミャンマー、人々の命が脅かされている人々への加護を祈願し用いているといいます。
これまでのパフォーマンスの写真の数々
こちらの装束は俳人である老女から聞いた「花装」と呼ばれ正装をして桜に会いに行く風習に着想を得たとか。
装束などの向かいはアート作品です。
羅入氏の作品は和紙に墨で描いたものとのこと。《ハイヌウェレ・レコードⅠ》は、井戸尻考古館でもおなじみのオオゲツヒメ、ウケモチ、ワクムスヒなど神食物起源神話の「ハイヌウェレ神話」を描いています。
こちらは石川雷太氏の作品です。宇宙を姿を表したのが仏教の曼荼羅ですが、ひとりひとりが宇宙の中心であると真言密教は解くといいます。
この「マンダラ」は、猫の視点に立つことより豊かな世界が見え、人類の住むこの世界の中の問題も見えのだといいます。
「作品「猫マンダラ」によせて」とされたメッセージからは、核抑止力、原発などに対する問いと訴えであることが明かされています。
おわりに
催しを知ったときは何が行われるのかイメージがつかめませんでした。先行して行われた資料展を見ても、密教系と縄文の繋がりは不明でありました。しかし実際に見てみると「混沌の首」の皆さんのパフォーマンスは新鮮で夜の史跡公園にはまると思いました。機会があればもう一度見たいと思うのです。
もともとは「混沌の首」の皆さんから史跡公園でパフォーマンスをしたいというオファーがあり、今回の建館記念イベントとしての出演になったそうです。来るものは拒まずの井戸尻の精神です。また、コロナ渦の無観客収穫祭のなど井戸尻は伝説は夜作られてきました。後に語られるであろう井戸尻の伝説がまた生まれました。
次回は8月24日に映画「縄文にハマる人々」の屋外上映が予定されています。山岡信貴監督と考古館長のトークショーも行われます。こちらも夜行われます。
参考URL
混沌の首(2024.8.8閲覧)
https://kondon.org/
Erehwon,混沌の首インタビュー 帝都音社Y(2024.8.9閲覧)
https://ameblo.jp/teitoy/entry-12810352968.html
参考資料
混沌の首「「 縄文・火と大地の記憶」にあたり」配布資料、2024
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