見出し画像

【‘‘推しの海外文学 厳選3選’’】



-現代の海外文学を読み解くための読書案内-


◆一冊目

本書に収録された七つの短編はどれも魅力的な物語であり、著者のデ・ラ・メアが描く世界には幻想的で恐怖感の二つが内在されており、薄気味悪さが絶妙で読者を楽しませる筆力を持つ作家の一人であると感じさせるものがありました。
表題作である「トランペット」に見られる宗教観や「豚」による動物をモチーフにした話、「アリスの代母さま」のようなおとぎ話のようなものにも、共通点として彼の描く手法が見事に体現されているところが非常に特徴的であり、物語の全体像を通しても面白い短編集でありました。
怪奇文学の手法として使われた朦朧法として、デ・ラ・メア以外にも、ヘンリー・ジェームズも挙げられるが、この手法を巧みに用いて物語から窺える情景描写や登場人物たちの心理描写が見事なリアリティーがあり、読者の私たちを異世界へと誘う作家性の力量を垣間見ることが出来る一冊でありました。


◆二冊目

ルネサンス期において、イタリアのフィレンツェで生まれたルクレツィアという一人の女性の生を描いた物語であり、彼女自身は実在した人でありながら、記録とフィクションが見事に絡まり、ルクレツィアの魂は現代へと蘇り、著者のマギー・オファーレルによって私たち読み手は物語を通して感動させる素晴らしい作品でありました。
姉の死によって、アルフォンソと結婚することになったルクレツィアは産む性としての使命を背負うこととなり、世継ぎを産むことに期待された若き彼女にとっては相当な重荷だったに違いないと本作を通して考えさせられることが色々とありました。
『ルクレツィアの肖像』は史実から見ると、彼女の生の証でもあり、精神性を鮮明に描いた人生の記録でもあることが窺えるのではないかと考えられます。
ルクレツィアとオファーレルの欲動は一つに重なり合うことで、物語に陰と陽を生み出し、肖像画に描かれた彼女がこれまでに目にした記憶や思い出、経験などから、何を得られるかは物語を読むことでしか味わうことが出来ない、特別な価値を秘めた作品であると私自身は感じました。


◆三冊目

モディアノが描く世界線には、現実と虚構の世界を渡り歩くことが出来る特別な文体に秘められた力が発揮されているのではないかと本作から感じられました。
「眠れる記憶」の根幹にあるのは、記憶と想起によるものであり、出会いと再会の中でモディアノは人の姿をより鮮明に描き出しており、もう一つの中編である「隠顕インク」でもそれは明らかだと考えさせられるものがありました。
モディアノの作品構造の円環にあるものは過去であり、それもまた記憶と結びつくものがあって、私たち読者は過去と記憶から、喪失感や哀愁というものを作品から感じ取ることが出来るわけであり、モディアノの鋭い観察眼は現実をきちんと捉えているということにも裏付けられるのではないかと思いました。
過去の記憶が川のせせらぎのように流れていく物語を通して、モディアノにしか描くことが出来ないものが本作にはあると痛感しました。



[あとがき]

今回の記事では、最近出版された現代の海外文学を三冊に絞って感想をまとめた記事として記しました。
【‘‘推しの海外文学 厳選3選’’】ということで、他の海外文学も手に取って読んでみたりもしましたが、今回は私自身の感覚で、この三冊が特に面白かったなということでこちらの作品を簡潔に記すことにしました。
また、機会があれば、次は海外の古典文学、もしくは現代の日本文学、古典文学とシリーズ化させた記事も書けるのではないかと考えていたりします。
それまでに、たくさんの本を読んで、これはぜひともオススメしたいと思えるような作品の感想も書いていきたいなと思いました。


この記事が参加している募集

読書感想文

海外文学のススメ

よろしければ、サポートお願い致します。 頂きましたサポート資金は、クリエイターとしての活動資金として使わさせて頂きます。これからも、宜しくお願い致します。