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【旅エッセイ42】木彫りのニシンはどこに?

  前回【旅エッセイ41】で、木彫りの巨大ニシンについて書いた。

「大きな木彫りのニシンがある」なんて言われて、誰がわざわざ見に行くのだろうか。ニシンなんてただの魚だ。木彫りだからってそんなものをわざわざ見に行くのは、私くらいのものだと思う。

 稚内から200km、車を走らせて見に行った。

 どうしてそんなものに心惹かれたのか、わからない。でも私はどうしても見たかった。留萌駅のニシン。

 途中で羽幌の美しい夕焼けが見られたので、それだけで満足の行く旅だったけれど、やはりどうしても木彫りのニシンが、見たかった。

 時間をかけて稚内から移動して、さぁお目見えだと意気込んで留萌駅に入ったものの、見つからない。

 おかしいな。まさか撤去されてしまったのだろうか。木彫りのニシンを見に来たのに……などと考えていると、何かがあった。

 KAZUMOちゃんというゆるキャラと。

 その後ろに、木彫りの何か。

 ニシンじゃなかった。

 留萌駅で私を待っていたのは、木彫りのカズノコ。

「木彫りのニシン」と聞いたのは、私の記憶違いだったのだ。

 私が200kmも車を走らせて探し求めた「木彫りのニシン」なんてものは、最初からこの世のどこにも存在しなかったのだ。

 なんて馬鹿なんだろう。どこにもないものを探し求めて、旅をして、見付かったのは木彫りのカズノコ。メーテルリンクの「青い鳥」なら、幸せを告げる青い鳥はどこにも見付からずに家に居たと言う結末になる。木彫りのニシンを探す私の旅は、木彫りのカズノコ(しかもゆるキャラのKAZUMOちゃんと掲示板の後ろに追いやられている)を見つけて終わった。

 仕方がないので、追いやられた可哀想な木彫りのカズノコの写真を撮る。

 探し物が見つからない時もある。それも旅の醍醐味かな。なんて、むりやり前向きに考える。

 探し求めた木彫りのニシンはなかったけれど、帰りに食べたニシンソバは、美味しかった。



また新しい山に登ります。