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【連作】ペーパーバタフライ

来ないはずの明日』→(略)→『天邪鬼』→(本記事)

 蝶を象った紙を油に浸し、摘み上げる。そして、翅の端にライターで火を灯す。
 ボワッと膨張音がしそうなほど勢い良く燃え立つ火炎が指先に届く前に、私は火達磨になった蝶を空中へ全力で放り投げた。火の粉を散らして舞い上がったそれは、赤い鱗粉の尾を伸ばしながら小さな星々が瞬く夜空へ飛んで行き、あっという間に消えてしまった。

「……すごい、きれい」

 溜め息を交えながら独り、ぽつりと溢す。
 残念なほど拙い感想を心の底から。


 蝶を象った紙──和紙ともティッシュとも違う奇妙な紙──は、先生から受け渡された代物だ。素材は不明である。だが、只管に肌触りが良い。
 先生が「願いを籠めながら、願いを届けてくれそうな形に折って燃やすと良いよ」と言うので、私は「願いを届けてくれそうな形って何だろう?」と一週間ばかし悩んだ。悩んで悩んで、結局何も浮かばなかった。
 最終手段として、アトリエの書架の奥に収められていた『折り紙の折り方』の本から蝶を選んだ。本に記された折り紙の蝶は決して空中に飛び立ちそうになかったけれど、実際に作って火を灯して放ったら、本物みたいに飛んだのだから不思議で仕方がない。
 一体如何なっているのだろう。仕組みは何だ。どんなタネが仕掛けられているのかしらん。

 問うてみたいけれど、先生へ実際に質問をすることはない。
 どんな事でも在るが儘を受け入れる。同時に、願望を含め、凡ゆる物を胸一杯に占めることも大切なのだ。そう感じ、学んだから。私は、私だけの願いを籠めて蝶を舞い上がらせる作業に集中した。

(了)

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