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顔も知らない僕のともだち

「優希、早く起きなさーい!」

毎朝お母さんのこの声で目が覚める。眠い目をこすりながらリビングに向かうと、パンの焼けるいい匂い。テーブルではお父さんがいつものようにコーヒー片手にタブレットで新聞を読んでいる。

「おはよう。」

と声をかけると、お父さんも

「おはよう。」

と返してくれる。僕が席に着くとお母さんがトーストとスープを持ってきてくれた。アツアツのトーストを頬張っていると、お父さんが

「そういえばもう10月だけど、手紙は届いたのかい?」

と聞いてきた。

「ううん、まだだよ。」

と答えながら僕は手紙のことを思い出していた。

僕たちの通う学校には文通制度っていうのがあって、遠くの学校の生徒と月に一度手紙のやり取りをする。僕たちが月の始めに手紙を出すと、翌月の頭に相手から返事が返ってくる。手紙に書くことは何でもよくて、僕は学校での出来事や好きな本のこと、休みの日にどんな事をしたのかを書くことが多かった。

先月もいつものように手紙を書いた。


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美咲ちゃんへ 

お元気ですか? 

こっちはまだまだ暑い日が続いています。

 今年の夏休みは、家族で山へキャンプに行きました。

バーベキューのお肉がおいしかったです。

夏休み中に海に行けなかったのが、少しだけ残念でした。 

そっちはどうでしたか?

お返事まってます。

 優希より

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美咲ちゃんというのは僕の今の文通相手で、きれいな字を書く女の子だ。文通相手は交代制で、毎年手紙を送る相手が変わる。ちなみに去年の文通相手は大介くん。力強い字を書く男の子だった。文通期間が終わった今でも学校を通してたまに手紙のやり取りをする、僕のもう一人の文通友達だ。

もう手紙を出してひと月経つ。そろそろ学校に返事の手紙が届いてるかもしれない。僕はウキウキしながら食事を済ませて学校へ向かった。

学校に着くと朝の会で先生から返事の手紙が渡されるんじゃないかドキドキしてたけど、特に何もなかった。しょんぼりしながら授業を受けて、気がついたら帰りの会の時間になっていた。

「今日は返事の手紙なしかぁ...。」

ガッカリしながら帰りの準備をしていると、先生が教室に入ってきた。先生の手には見覚えのある大きな布袋。手紙が届くと、先生はいつもこの布袋に手紙を入れて僕たちのもとへ届けてくれる。と、いうことは──

「みなさ〜ん、待ちに待った手紙の返事が届きましたよー!」

先生の声で教室から「わっ!」と歓声が上がった。みんな手紙の返事が楽しみで仕方なかったのだ。先生が一人一人に手紙を渡していく。ドキドキしながら待ってると、

「はい、優希くんの分ね。」

と先生が手紙を渡してくれた。封筒にはいつものきれいな字で「太田 優希さまへ」と僕の名前が書かれている。

すぐにでも手紙を読みたかったけど、みんなにがっついてると思われるのが嫌で家に帰ってから読むことにした。帰り道が駆け足になったことは言うまでもない。

急いで家に帰ると手洗いうがいをした後、電光石火でランドセルから手紙を取り出した。きれいに封筒を開けて、手紙を読む。そこにも封筒同様、いつものきれいな字が並んでいた。


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優希くんへ

お手紙ありがとう。

元気にしてるよ。優希くんも元気にしてる?

夏休み、家族でキャンプうらやましいな。

私はこの夏休み、家族で海に遊びに行きました。

キラキラしてて、とってもきれいだったよ。

手紙と一緒に海の写真も入れてるから、よかったら見てみてね。

私は今、秋の読書週間で学校の図書室の本をたくさん読んでいます。

また面白い本を見つけたら紹介するね。

美咲より

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「海の写真...?」

急いで封筒の中を確認すると、中から一枚の写真が出てきた。そこに映っていたのは今年僕が見れなかった、どこまでも青い、きれいな海。それは窓から差し込む夕日に照らされて、とても幻想的に見えた。今までずっと文通をしてきたけど手紙以外のものが入っていたのは初めてで、僕はとても驚いた。でも、それ以上にうれしかった。

「せっかくだから、次に手紙を出す時には僕も手紙と一緒に何かプレゼントを入れて美咲ちゃんにお返しをしよう。」

そう思いついた僕は、うんうん頭を悩ませながら考えた。

「封筒に入るくらいの大きさで、美咲ちゃんに喜んでもらえる物って何だろう?」

いくら悩んでも思いつかなかった僕は、思い切ってお母さんに相談してみることにした。

「ねぇ、お母さん。封筒に入るくらいの大きさのプレゼントって何が良いと思う?」

突然の僕の質問にお母さんは困った顔をした。仕方なく美咲ちゃんからの手紙の内容と、写真が一緒に入ってて何かお返しがしたい事を説明すると

「なら、しおりはどうかしら?美咲ちゃんの学校では秋の読書週間みたいだし、ちょうどいいんじゃない?でも、手紙以外の物も入れるなら先生にちゃんと相談しなさいね。」

と提案してくれた。

本のしおり。

なるほど、ナイスアイディアだ。さっそく僕はしおりのことを先生に相談することにした。

次の日、学校へ行くと僕は昨日のしおりのアイディアを先生に話した。すると先生も

「それはいいアイディアだね。せっかくだから押し花をしおりにしてみたらどうかな?きっときれいなしおりになるよ。良かったら先生もしおり作り手伝おうか?」

と言ってくれた。先生がいてくれるなら心強い。そうと決まればさっそく、しおり作りスタートだ。

放課後になるのを待って、先生と一緒にまずは押し花にする花探し。サルビアにコスモスにポーチュラカ。学校には花がたくさんある。でも、花壇にある花はとっちゃダメだから、なかなか押し花にできる花が見つからない。

「どうしよう…。」

と僕が途方に暮れていると

「じゃあ、イチョウの葉はどうかな?今ならたくさん葉が落ちてるはずだから、きれいなのを選んでしおりにしよう。」

そう言うと先生は僕を運動場に連れて行った。運動場にはイチョウ並木があって、そこにはたくさんのイチョウの葉が落ちていた。

「この中からしおり用のきれいなイチョウを探そっか。」

そういうと僕たちはきれいなイチョウの葉を探し始めた。最初、僕は

「葉っぱでしおりなんて地味じゃないかな?」

と心配してたけど、近くで見てみるとイチョウはとてもきれいな黄色で太陽にかざすとキラキラして見えた。先生と二人できれいなイチョウの葉を何枚か選ぶと

「よし、じゃあこれでしおりを作ろう!」

と今度は職員室へ。先生は机から分厚い本とティッシュを数枚持ってくると

「ティッシュでイチョウの葉を挟んで上から重い本を置いとけば、きれいな押し花になるんだよ。」

と教えてくれた。教えられた通りティッシュでイチョウの葉を挟んで、上から重い本を置く。押し花が完成するまで数日かかるということで、今日はここまで!と家に帰ることになった。押し花は先生が学校で管理してくれると言うから安心だ。

数日後、僕は先生と一緒に押し花が出来てるか確認してみることにした。本をどかして、そーっとティッシュを外してみる。すると、そこにはきれいなイチョウの押し花が出来上がっていた。うれしくて僕は思わず叫んだ。

「うわー!先生見て!きれいに出来てる!」

それを見た先生も

「きれいに出来てるね。」

とニコニコしながら褒めてくれた。イチョウの押し花を和紙に貼り付けて、プラスチックのシートで加工。最後にリボンを付けたら完成だ。

「できたー!」

完成したしおりを手に、僕はガッツポーズをした。思った以上にうまく作れた。これなら美咲ちゃんに喜んでもらえるはずだ。それに、もう一人の僕の友達にも。

しおりが完成した次の日。学校では手紙の時間があった。手紙の時間はみんなで文通相手に手紙を書く時間で、僕は美咲ちゃんへの手紙を書いた。


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美咲ちゃんへ

この前はきれいな海の写真をありがとう。

とてもうれしかったです。

お礼にイチョウの葉っぱでしおりを作ってみました。

先生に手伝ってもらって作ったから、上手くできたと思います。

良かったら使ってみてください。

優希より

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手紙を読み直して、文字に間違いがないか確認する。うん、大丈夫。封筒の宛名も丁寧に書く。手紙とイチョウのしおりを封筒に入れて、のりでペッタンすれば完成だ。完成した手紙は二通。一通は美咲ちゃんへ。もう一通は大介くんへ。せっかくだから大介くんにもしおりを作って、手紙も書いた。二人とも喜んでくれるといいな。

完成した手紙は、先生が美咲ちゃんたちの学校に届くように手配してくれる。次に返事が届くのは一か月後だ。

美咲ちゃんにも大介くんにも会ったことはない。顔も知らない。話したこともない。でも、僕にとっては大切な友達なんだ。

顔も知らない僕の大切な友達たちが喜ぶ顔を想像しながら、また一か月、僕は二人からの返事を首を長くして待っていようと思う。


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