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美味学は人の一生を支配する 〜200年来読み継がれている名著〜

以前ある方が『かがみの孤城』という小説を紹介してくれた。

それはちょうど、私の中1の息子が完全に不登校になったばかりの頃だった。そのとき私はまだカオスの中にいた。

『かがみの孤城』は不登校の中学生をめぐる、不思議な物語だった。とても面白くて一気に読んでしまった。ラストシーンで全容を理解した時には衝撃を受けた。以下のnoteに感想を投稿した。

すごく面白かったので、不登校の息子にも勧めてみたら、息子も一気に読んだ。

読書が大好きな息子は、月に何十冊もの本を読む。それだけの本をとても買ってはいられないから、わが家は図書館のヘビーユーザーだ。

息子が読む本を買ってたら大変だから基本的に買わないのだが、『かがみの孤城』については、読み終わった息子が「買ってほしい」と言ってきた。また読みたい。手元に置いて、何度も読みたいから、というわけだ。

月に何十冊も本を読む息子だが、図書館で借りて読んだ本を買ってほしいということはあまりないので、よっぽどおもしろかったにちがいない。

私はすぐに買ってあげた。そして息子は何度も読み返している。

この本を紹介してくれたJさんには、「こんなにおもしろい本を紹介してもらってありがとうございます」そんな気持ちでいっぱいだった。

Jさんにお礼は伝えたことはあるのだが、最近『美味礼讃』を読んでいたら、突如Jさんにお勧めしたくなった。

著者のブリア=サヴァランは、1755年生まれのフランス人。法学、化学、医学を学んだ後、弁護士、代議士、国会議員、司法官、裁判官として活躍する。途中、フランス革命に巻き込まれアメリカに亡命していたこともあった。

あらゆる分野において博識な人。そして、極度の美食家であった。

『美味礼讃』は、1826年、ブリア=サヴァランが70歳で亡くなる2ヶ月前に出版された著作である。

彼が亡くなってから200年近く経ついまなお、世界中で読まれているベストセラーである。

私は大学でフランス文学を専攻していたので、もちろん『美味礼讃』を読んだことがあった(日本語で)。

2017年に玉村豊男さんが翻訳された新装版が出るまでは、1960年代に関根秀雄氏が翻訳されたバージョンを日本語で読むことができていたのだが、原作に忠実に翻訳されていることもあり、なかなか回りくどくて読みにくい本だった。内容は濃厚ですごくおもしろいんだけれども。

その難解で読みにくい『美味礼讃』が、玉村豊男さんによって2017年に翻訳された。

玉村豊男さんはフランス文学者であり、作家であり、画家であり、「ヴィラデスト」という素晴らしいワイナリーの創始者兼オーナーである。

私はいま、玉村さんによる新訳バージョンの『美味礼讃』を読んでいる。

これが大変おもしろい。

翻訳された玉村さんの主観の入った解説が添えてあり、ブリア=サヴァランの傲慢さや玉村さんのユーモアが感じられて、笑える箇所もたくさんある。

翻訳者が変わると、こんなに本の印象って変わるものかと、改めて翻訳者の解釈の存在の大きさに気づいた。

私がもともと玉村さんの本やアートやワインが大好きだということも影響してはいると思う。

『美味礼讃』を改めて読んでみると、ブリア=サヴァランが生きていた当時のパリの食文化の様子がよくわかって興味深い。

フランス人はこの頃から「美食家」、いやそれを通り越して「食いしん坊」だったんだなと実感させられる。

ちなみに、私が美食の街に留学していた時に、「美食家(グルメ)」と「食いしん坊(グルマン)」はまったくちがうんだと、食いしん坊のフランス人に注意されたことがあった。その人はもちろん、自称「美食家(グルメ)」だった。

『美味礼讃』を読むと、フランス人の食に対する貪欲さを改めて感じる。フランス人って、食べることが大好きで、美味しいものが大好きで、食べるために生きている。私も食べることが大好きなので、心から親近感を感じる。

私は曲がりなりにも、大学でフランス文学を学んだ人間である。実際は、文学を読むより、ワインを飲んでいる時間の方が長かったけれど。。。

『美味礼讃』は傑作だ。

私は突如として、この本を誰かに紹介したくなった。

この本は、読むのに時間がかかるし、学術的な雰囲気がある。ビジネス書のように軽やかに読める類の本ではない。

しかし、心から本が大好きな人なら、この本を読んだら虜になるかもしれない。

誰かに伝えたい。でも、誰に伝える?みんな忙しいだろうし。

その時に真っ先に思い浮かんだのが、『かがみの孤城』を紹介してくれたJさんだ。

Jさんなら、きっと『美味礼讃』という長い読み物を最後まで楽しまれると思う。やや古典的な文学の持つ素晴らしさや魅力を感じてもらえると思った。

世界的に有名な本なので、小説の執筆も手がけたことのあるJさんなら、すでに読んでいるかもしれない。でも、まだ出会ってないかもしれないから、紹介してみようと思った。

Jさんなら、『美味礼讃』をおもしろがってくれるにちがいない。根拠のないそんな確信を持ってお勧めしてみた。

そう思いたち、Jさんに久しぶりにメッセージを送ってみた。

はたして、Jさんは『美味礼讃』をご存知なかった。私は「やったー」となぜか心の中でガッツポーズをした。

勝ったとか負けたとかではもちろんなくて、本が大好物なJさんが『美味礼讃』を読んで「すごくおもしろかった」って感じてもらえたら、なんかすごく嬉しい。

おそらく、Jさんがふだん読んでいるジャンルとは異なるフランス文学の作品である。Jさんの世界を少しでも広げるきっかけになったら、すごくうれしいではないか。

だって、おすすめの本を紹介してもらえることの喜びを、Jさん自身がよく知っているから。

Jさんがおすすめしてくれる本はとてもおもしろいので、興味のある人は以下のnoteを読まれたい。

ブリア=サヴァランの『美味礼讃』を読んでいたら、ブリア・サヴァランという名前の白カビチーズが無性に食べたくなった。

ブリア・サヴァランは、フランスのブルゴーニュ産の絶品チーズ。もちろん、作家ブリア=サヴァランにちなんで名付けらたチーズである。

近々、仕入れて食べることにした。おとものワインは、もちろんブルゴーニュでしょう。想像しただけでもよだれが出そう。

フランス文学科に在籍している時は、文学のおもしろさなんて1つもわからなかったけれど、人生はわからないものだ。

文学は時間を経って、後からじわりじわりとやってくる。歳をとるって文学のおもしろさがわかるようになることなのかもしれない。

ほかに優先してやらないといけないことが私にはあるのだけど、ついつい読み耽ってしまう。フランス文学って罪深い。

『美味礼讃』はKindle版も出ています。さらっと読める本ではないけど、とってもおすすめです!


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