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「檸檬(Lemon)」(米津玄師)は、喪失感か、ロマンスか。

米津玄師の「檸檬(Lemon)」は、深い喪失感とそれに伴う悲しみ、未練、そして忘れられない愛を描いた曲です。この曲は、ドラマ「アンナチュラル」の主題歌であり、特にその背景にある、愛する婚約者が殺されてしまったという裏ストーリーと重なり、歌詞により深い意味合いを持たせています。以下に、歌詞の解釈を掘り下げて解説します。

1. 夢と現実の交錯

「夢ならばどれほどよかったでしょう 未だにあなたのことを夢にみる」


愛する人を失った後の現実は、まるで悪夢のようなものであり、主人公はそれが夢であってほしいと願っています。しかし現実は冷酷で、失われた愛が現実であることを受け入れざるを得ない。その中で、唯一夢の中だけで彼女に再会できるという切ない現実があります。夢と現実が交錯し、失った愛の重さが日常に影響を与えているのです。

2. 過去の回想と失われた幸せ

「戻らない幸せがあることを 最後にあなたが教えてくれた」


ここで歌われているのは、愛する人を失うことで初めて気づく、「戻らない幸せ」の存在です。彼女との時間や、共有した幸福はもう二度と戻らないことを彼は痛感しており、その喪失感が彼をさらに深い悲しみに引きずり込んでいます。彼女の存在が、彼にとってはその「戻らない幸せ」を教えてくれる最後の存在だったのです。

「言えずに隠してた昏い過去も あなたがいなきゃ永遠に昏いまま」

彼女がいることで、彼の過去の暗い記憶や心の傷が癒されていたことを示しています。彼女の存在が、彼にとって救いであり、癒しであったのです。しかし彼女を失ったことで、彼の暗い過去や感情が再び押し寄せ、永遠に癒されないものとして残ってしまうことへの恐怖と喪失感が表れています。

3. 愛と苦しみが交錯する感情

「あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ そのすべてを愛してた あなたとともに」


この部分は、彼が過去に感じた悲しみや苦しみさえも、彼女と共にあったからこそ愛せたという意味を持っています。彼にとって彼女との思い出は、苦しさも含めてすべてが愛おしいものだったということです。たとえ苦しい日々があったとしても、彼女と一緒にいることでその苦しみすらも美しい思い出に変わったのです。

「胸に残り離れない 苦いレモンの匂い」

「レモンの匂い」は、彼女との思い出がいつまでも消えないことを象徴しています。レモンの酸っぱさは、彼女を思い出すたびに感じる痛みや苦しみを表しており、その苦味が彼の胸に深く刻まれ、永遠に離れることがないという感覚を表現しています。これは、彼女を失った喪失感がいまだに彼を支配していることを示しています。

4. 暗闇と光

「今でもあなたはわたしの光」


この部分は、彼女がいなくなっても、彼の人生における「光」として存在し続けていることを示しています。彼女は彼の人生の中で、唯一の救いであり、失われた今もなお、彼女が彼にとっての希望であり続けているのです。彼女がいない暗闇の中で生きる彼にとって、彼女の存在が唯一の光であるという象徴的な表現です。

5. 受け入れきれない現実

「暗闇であなたの背をなぞった その輪郭を鮮明に覚えている」


彼は彼女の最後の姿や感触をはっきりと覚えており、それが彼の心に深く刻まれています。(ただしドラマの設定を考えると、彼が彼女の亡骸にすがっているかもしれないという解釈もあります。)彼女の死という現実を受け入れきれず、その記憶に縋るように生きている様子が感じられます。この記憶は、彼にとって愛しさと同時に、耐え難い喪失感を引き起こすものであり、その記憶から逃れられないことを示しています。

「何をしていたの 何を見ていたの わたしの知らない横顔で」

彼女がどんな思いで生きていたのか、彼はすべてを知ることができなかったという悔恨が感じられます。彼女の死によって彼は、彼女の全てを理解できなかったこと、彼女の横顔に映る別の一面を見てしまったことに対する後悔と悲しみを抱いています。

6. 愛の忘却と自己犠牲

「どこかであなたが今 わたしと同じ様な 涙にくれ 淋しさの中にいるなら わたしのことなどどうか 忘れてください」


彼は、自分と同じように彼女がどこかで苦しんでいるなら、自分のことを忘れてほしいと願っています。彼女が彼のことを思って苦しむくらいなら、彼女のために自分のことを忘れてもいいと感じていることは、自己犠牲的な愛を表しています。彼は彼女の幸せを願い、彼女が苦しみから解放されることを望んでいます。

7. 息ができないほどの愛

「自分が思うより 恋をしていたあなたに あれから思うように 息ができない」


彼は、彼女を失った後、自分がどれほど深く彼女を愛していたかを改めて実感しています。その愛が大きすぎて、彼女を失ってからは息をするのも苦しく感じるほどです。彼女がいない現実が信じられず、まるで嘘のようだと感じる彼は、彼女との思い出が鮮明で忘れられないことを認めています。

「あんなに側にいたのに まるで嘘みたい とても忘れられない それだけが確か」

ここでは、彼がどれだけ彼女と近く、親密だったかを思い返しています。しかし、彼女が今はもういないという現実が、まるで嘘のように感じられるほど彼にとって信じがたいものです。そんな状況の中、唯一確かなことは、彼女のことを忘れられないという事実です。時間が経っても、その思いが彼の心に深く刻まれ続けていることを示しています。

「あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ そのすべてを愛してた あなたとともに」

彼にとって、彼女と共有した全ての感情—悲しみや苦しみさえも—愛していたという表現は、彼女との時間がどんなものであろうと大切だったことを表しています。良い時だけでなく、辛い思い出も含めて彼女と一緒に過ごした日々全てが、今となっては愛おしいものであったことを感じ取っています。

「胸に残り離れない 苦いレモンの匂い」

「苦いレモンの匂い」は、彼女との思い出が心に深く残り、その苦さと共に忘れられない感覚として彼に染み付いていることを象徴しています。彼女の存在は彼の中で今でも生々しく残っており、その匂いは彼が抱える喪失感と切なさの象徴でもあります。

「雨が降り止むまでは帰れない」

ここでの「雨」は、彼の心の中にある悲しみや喪失感を表しています。雨が止むまでは彼が前に進めない、つまり彼の悲しみが癒えるまで、彼はこの状態から抜け出せないということを示唆しています。彼の心はまだ彼女の死に囚われており、雨が止む瞬間を待ち続けています。

「切り分けた果実の片方の様に 今でもあなたはわたしの光」

「切り分けた果実の片方」という比喩は、彼女との絆や二人の関係性を表しています。果実の片方が欠けたことで、彼は不完全な存在になったことを感じています。しかし、彼女は今でも彼にとっての「光」であり、彼の人生における希望や支えの象徴として存在しています。彼女の存在が彼にとっては消えないものであり、喪失した今も彼の心の中で輝き続けているのです。

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総括

「檸檬」は、愛する人を失った深い悲しみと喪失感、そしてその中で生まれる未練や葛藤を描いた詩です。彼にとって彼女は、暗闇の中の唯一の光であり、彼女を失ったことで彼は自分自身を見失っています。レモンの苦い匂いは、彼女の記憶が苦しみと共に永遠に彼の中に残り続けることを象徴しています。彼女を忘れることができず、彼の中で彼女は今も生き続けており、その存在が彼にとっての光であり続けるのです。彼がいまだに彼女を強く愛していること、そして彼女がいなくなったという現実がまるで嘘のように感じられるという強い感情が描かれています。特に、「苦いレモンの匂い」という表現は、彼女の記憶が彼にとって苦しくも忘れられない存在であることを象徴し、二人の絆が深く心に刻まれていることを示しています。彼女との思い出が、どんなに苦いものであっても、彼にとっては大切であり、彼女が今もなお彼の「光」であるという確かな感情が、歌詞全体を貫いています。

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