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『宇宙で一番愛されたい死神』

本当は宇宙で一番愛されたい死神。

愛されると殺したくなる。
狩りたくなる。自分を。

幸福が完成しそうになる瞬間、
これみよがしに魂ごと刈り取る。
それがその死神に課せられた使命。
これからもずっと。

ずたずたに切り裂かれた幸福を見て
残忍な笑顔を浮かべている仮面の奥で
枯れるほど
浴びるほど
泣いている
本当は宇宙で一番愛されたい死神。自分。

彼女を生み出したのも他ならぬ自分。
一番肯定してあげなければいけなかった自分を
許せずに殺し続けてきた。
いつしかそれは不死身の死神の仮面をまとい
こびりついた影のように
胸の奥にひそみ
近づきすぎた者を殺し
忍び寄る幸福を破壊する
怪物になっていた

わかってる
そうさせたのは自分
こうなって当然なのだ
止まない自嘲

死神はただ
未完成のまま引き裂かれた愛の残骸を前に
冷たく見下ろすだけ
でも仮面の奥ではきっと――

彼女を救うことができる者がいたとしたら
おそらく、いや確実に
自分しかいない

だって彼女だけなのだ
生まれてからずっと
影のように私のそばにいて
私のすべてを見てきて
私の全部を知っているのは……

知っているから
彼女は敵になった
全部知っているから

でも逆だった
この宇宙で彼女だけが
私を全部知っている
だから――だからこそ
一番の味方になれたはずだった

喜びも悲しみも
好きなことも
嫌いなことも
泣いた日も
笑った日も
いけないことも
許せないことも
愛した日も
愛された日も
始めた日も
終わらせた日も
全部見て
知っていてくれる
宇宙でたった一人の自分なんだから

もし、その時が来たら
死神の仮面をそっとはずして
その子の宇宙全部包みかえすように
抱きしめてあげよう
涙で宇宙が満ちるまで

最大の敵が自分なら
最大の味方も自分なはずだ
どう決めるか
きっと言うほど楽じゃない
でも、私は待つ
最低最悪な自分を愛する勇気を
待ち続ける




水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。