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もし雨が止まなければ

どんよりと分厚い雲が空を覆い、もう雨なんて止まないのではないだろうかなんて思わせるほどに1日中雨が降っている梅雨。

きっと日本は今そんな憂鬱ながらも夏の訪れを心待ちにする、そんな季節の真っ只中なんだろう、と想いをはせてみる。

 

久しぶりにバンコクに雨が降った。
6月に入り「雨季」といわれる季節に変わったけれども、相変わらず日中は35℃を越えるし、夜だって30℃を切らない日もある。
それでも、少し前と違うのは雨が降ること。
しとしとなんて可愛い雨ではない。バケツをひっくり返したようななんて例えを聞くけど、もっとだ。まるで小学校に会った25メートルプールを空からひっくり返したらこんな雨になるんだろうなという雨が降る。

 

日本の梅雨がどことなく可愛く思えてきた。
雨粒が地面や窓を打つ音に耳を澄ませ、車が水たまりをはねる音に外の様子を想像する。紫陽花は雨粒をうけて輝きだすし、梅雨の出口には真っ青な夏が待っている。

 

タイに来て気づいてしまったことがある。
わたしは夏が好きだと思っていた。深い青い空に、縦に大きく伸びる真っ白の雲。そんな空の色を反射させたような海の色。肌にじわりつたる汗すらも、夏を彩るすべてが好きだと思っていた。

だけれども、常夏の国ではそれも日常茶飯事だ。
ああ、きっと私は「夏」ではなく「四季の中輝く夏」が好きだったんだと、そう気づいてしまった。

緑の葉がじわりと赤や黄色に色を変え、それらが落ちると一面の白い世界に染まる。だんだんとあたたかくなると、世界はカラフルに色を変え、そして雨の季節がやってくる。そこまでしてやっと夏が来る。

もしも、雨が止まなければ夏はやってこないし、そもそも夏を連れてきてくれる雨が降らなければ夏はやってこない。

きっと、1年という長くも短い時間がゆっくりとめぐりめぐることそのものがわたしにとっての夏だったんだ。

 

今日も、土砂降りの雨が止んだ。
今日ぐらいは雨粒に輝く街に、勢いよく飛び出してみよう。

この国でも、移り変わる季節の美しさを見つけていこう。

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