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5歳のわたしは、フランスに恋をした

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二度のパリ生活や、留学、家族旅行などでフランスを訪れては、第二の故郷のように感じてきた筆者の目にうつる「フランス」を言葉にしていくエッセイ集。家族とのゆかいな思い出や、フランスの…
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2023年6月の記事一覧

5歳のわたしは、フランスに恋をした。

わたしの人生に、突然フランスが登場したのは、 保育園の年長さんにあたる、5歳の春だった。 大学教授をしている父のサバティカル(研究休暇)で、家族で一年間フランスのパリに住むことになったのだ。 初めての飛行機、初めての外国、初めての外国語…。それが、わたしにとってはこのときの経験だった。 自分が保育園に通う子どもの母親になった今、 もし子どもが親の都合で、住み慣れた町や、大好きな友達と離れることになったら、かわいそうだなと思う。 けれど、振り返ってみると、当時のわたしは、

親愛なるフェティ一家

パリに行くたびに訪れていた家がある。 チュニジア人のお父さんのフェティと、フランス人のお母さんフレデリック、それに、ふたりの姉弟の子どもたち(ジアンヌとエリエス)が暮らす家だ。 もともとは両親の友人で、わたしも5歳の頃からの付き合いだから、パリの親戚のような感じだ。 サンドニというパリの郊外の町にあるフェティの家には、わたしたち家族は本当によくお世話になった。とくに、わたしと父は、渡仏するたびに下宿させてもらっていたし、留学時代は風邪を引いたときや、ホームシックになった

初めてのパリのおつかい

小さな頃から、母にくっついてお買い物をするのが大好きだった。 初めて暮らしたパリの町では、当時からスーパーの野菜や果物がすべて量り売りだった。好きなものを好きな量だけ測りにのせて、野菜や果物のイラストが描かれたボタンをピッと押せば、バーコードのシールがでてくる。 この機械にすっかり夢中になって、スーパーに行っては、このピッ、ピッ、とボタンを押してバーコードを貼る作業はわたしの担当だった。 レジ台は自動ですすむベルトコンベアーのようになっているので、次々にカートの中から商

お気に入りはピカソ

パリの小学校の授業では、なんといっても、美術の授業がいちばん楽しかった。 パリ市内のあちこちの美術館に行っては、好きな絵の前に座って、自由に模写をするという時間があった。絵を選ぶのも子どもたち、ひとりひとりの自由。たくさんの色を使って、絵を描いた。 日本だと、美術館に子どもと一緒に行くと、わたしはどうしても周りの目を気にしてしまうし、鉛筆を出しただけで注意されてしまいそうだけど、フランスでは(ヨーロッパのほかの国でも)そんなことはない。 小さな頃から、学校で美術館や博物

いつものホームレスのおじさん

たしか最寄のビュットショーモン駅だったと思うのだけど、毎朝メトロの入口に立ってるホームレスのおじさんがいて、5歳のわたしは母からフランをもらってあげていた。(当時はまだユーロじゃなくてフランだった) 小さなコップのようなものをもっているので、「ボンジュール!」と声をかけて、お金をいれるのがわたしの係だった。 あの頃は、お家がないってどういうことなのか、よく分からなかったけれど、いつもおなじ場所にいるおじさんにあいさつをしているうちに、だんだんと親しみが湧いてきて、友だちに

住んだのは、移民だらけのパリ19区

パリの町は、セーヌ川を真ん中のシテ島から螺旋状に囲うようにして、20の区に分けられている。そして、その小さなエリアごとに、街並みや集まってくる人たちの色が異なる。 たとえば、カルチエラタンと呼ばれるパリ左岸の5区は、名門のソルボンヌ大学がある学生街で、文化的な雰囲気のエリアだし、映画『アメリ』の舞台になった18区のモンマルトル周辺は、もうちょっと下町風情だったり、13区には中華街があったりと、さまざまだ。 そのなかで、わたしたち家族が住んでいたのは(というか両親が選んだの

魔法の呪文は、こもんちゅたぺる?

おまじないのように覚えた最初のフランス語がある。 こ も ん ちゅ た ぺ ー る? コ モ ン チュ タ ペ ー ル? 「あなたのお名前は?」という意味だ。 フランス語には、二人称の「あなた」でも、家族や友人の間柄で使う「tu/チュ」を使った話し方と、目上の人や年配のかたと話すときに使う「vous/ヴ」を使った話し方があるけれど、飛行機の中で父が教えてくれたのは、相手に親しみを込めて使う「チュ」の方だった。 「ぼんじゅーる」と「こもんちゅたぺーる?」を手に入れたわ