見出し画像

何かあったら教⑤

「あなたがいま考えていたことってどんなことかな。子どものこと? それとも食べ物のことかしら」

ズバリ頭のなかを当てられてしまい、驚きのあまり口を開けたまま(マスクで見えないんだろうけど)首を縦に振った。

「そうね。いま多くの食べ物には、遺伝子組み換えのもの、添加物、抗生剤などが使われています。食べ物に似た不純物が入ってるケースもあるわね。でも、それは食べ物に限ったことではありません。化粧品や石鹸、水、空気、それに紫外線。もしもそれらのせいで、あなたが病気になってしまった時、誰が責任を取ってくれるのでしょう。食品メーカー? 国? 逆にあなたのおうちで、あなたのお子さんの友達がケガをしてしまった時、あなたは責任を取れますか? 何かあったらどうする、というのは、何かあった時あなたは責任を取れますか? ということです」

私は中国から来る塵まじりの黄色い風のことを考えた。それから以前うちで、りんごに刺したフォーク代わりの爪楊枝で口のなかをケガしてしまった息子のお友達のことも。

「小さなケガなら、電話の謝罪で済むかもしれません。けれどもしも大きなケガをしたら?」

あの時は歯茎から少し血が出ただけだったけれど、謝っても許されないほどの大きなケガになっていたら、どうしてただろう。ザワザワとした不安が私のなかで広がっていくのを感じた。むつみさんが私の方を振り返って、大丈夫だよ、という代わりに私の目を見て大きく頷く。

「ナクサはいざという時のためにあります。どんな小さなことでも構いません。あなたが受け止め切れない責任を負った時、ナクサに電話してください。私たちはあなたの代わりに慰謝料を支払い、壊れたものがあれば弁償し、あなたの不安を救います。0120-250-793。覚え方は、“ふ・こ・う・は・な・く・さ”。“不幸を泣く身”じゃないわよ!」

とジャイコさんが言うと、会場はドッと笑いに包まれた。つられて一緒になって笑っているうちに、暖かな何かがじんわりと私の体を包み、心がほぐれていくのを感じた。

(つづく)


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?