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比べるものではないけれど|「三流シェフ」三國清三

この本でいちばん素晴らしいのは、このカバー写真だと思っています。
一方は、若き日のとんがった表情、ポーズの三國シェフ。
もう一方は、同じポーズなのに穏やかで、好々爺然とした現在の三國シェフ。
現在の三國シェフは、かつての自分をパロディ化できるほど、豊かな経験に裏打ちされて日本料理界に君臨していることを、彼をよく知らない私ですら一瞬で読み取ることのできる写真。

裸一貫から、「世界のミクニ」と呼ばれるまでの、華麗なる半生。
なんといっても、ご自分の売り込み力がすごいです。今でいうところの、「セルフブランディング」でしょうか。
年齢や性別、国や地域を超えて、人と社会の中をわたっていく力。
ご自分でも「喋るのだけは昔から得意なのだ」とおっしゃるくらいなので、弁が立つ方だとは思いますが、それでも先が見えないまま雑用を続ける下積み時代。
チャンスの糸はとても細かったけど、くさることなく鍋磨きをしながら待ち続け、ある日突然開ける料理への道。感動的です。

同じく日本フランス料理界のレジェンド・斎須政雄さんの「調理場という戦場」は私の愛読書なので、「三流シェフ」を読みつつ、どうしても両著を読み比べてしまいます。

どちらかといえば世渡り上手な三國さんに対して、斎須さんは愚直に料理に向き合ってきた方、という印象。
斉須さんの言葉は熱く鋭くて、何度読んでも心がえぐられる。
「三流シェフ」を読んだ直後から、また久しぶりに「調理場という戦場」を読み直して、冒頭から感極まって泣いてしまった。


仕事への向き合い方や人生観は、ほんとうに人それぞれだし、比べるものではない。
でも、「三流シェフ」を読んでいると、三國さんも、斎須さんにあこがれてたんじゃないかな、と勘ぐってしまう。


「三流シェフ」を読むなら、併せて「調理場という戦場」も読んでみてほしいです。





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