【名画をプロップスタイリングしてみる Vol.5】ポール・ゴーガン「イア・オラナ・マリア」
今日の1枚はポール・ゴーガン「イア・オラナ・マリア」
NYのメトロポリタン美術館にあります。
最近はどの美術館に行っても「ゴーギャン」ではなく「ゴーガン」と表記されているので、この呼び方でいきますね。
さて、ゴーガンと言えば、タヒチで描かれた絵が有名ですが、「わくわく楽しいタヒチ」の時代と「辛くて悲しいタヒチ」の2つの時代があるのをご存知ですか?
この絵は最初の「わくわく楽しいタヒチ」の時代に描かれた作品です。
ゴーガンが画家に転身したのは35歳の頃。それまではバリバリの証券マンでした。イヤミったらしくて性格悪かったらしい(笑)
株価大暴落により職を失い、趣味だった絵を職業にしていくことに決めますがそううまくはいきません。
コペンハーゲンやパナマ、ゴッホと共同生活をしたアルル(たった2か月)、パリやブルターニュを移動しながら貧乏なまま独学で絵を描き続けていましたが、この時期急速に近代化が進んだヨーロッパ文明社会がイヤになっちゃって、「なんかもう原始的な国に行きたい…」とか思っちゃうんですよね。なんか気持ちわかるなぁ。それで「私はタヒチに決めた。…そしてこの野性味のある素朴な国で、私の芸術を磨きたいと望んでいる」とか言って移り住んじゃいます。
そこで描いたのがこちらの「イア・オラナ・マリア」。
よーく見てください。右の赤いパレオを着た女性とおんぶしている子供の頭上にニンブス(金色の光輪)が見えませんか?
そう、この2人実は聖母マリアとイエスなんです…!
左には美しい黄色と青の羽を持った天使と、手を合わせる2人の女性が見られます。
この絵は別名「アヴェ・マリア」または「マリア礼賛」と呼ばれています。
これは多分「東方三博士の礼拝」に近いシチュエーションなのではないでしょうか。
わたしこれを知った時かなり興奮したのですが、みなさんどうですか?!?!(圧)
これはタヒチの小さな村、マタイエアの人々を描いた作品で、マタイエアの現地民は他の島民とは違ってカトリック教徒が多かったそうです。
タヒチの原地人であるマオリ族の宗教感についてゴーガンは興味津々で、彼らがヨーロッパ人とは違うものを持っていることに気付いたのですが、それを表すのにあえてヨーロッパ的な表現を用いたそうです。マリアとイエスに手を合わせて礼拝している二人の女性は、仏教のお祈りの姿(ジャワ島のボロブドール寺院にある、仏陀にあいさつをする僧の彫刻)をモデルにしているそうです。
宗教文化混合。めちゃくちゃおもしろいなぁ。
ちなみに「イア・オラナ・マリア」の「イア・オラナ」とは挨拶のときに使う言葉だそうです。
このマリアと2人の女性の穏やかな厳かな表情の描写素晴らしいですね。信仰心が伝わります。
そして深い色で描かれた山、手前の紫の道、目にも鮮やかな緑の芝。むせかえるような色彩。なにもかもが豊か。バナナめっちゃある。ゴーガンの絵って匂いまで感じるからすごいなぁ。
輪郭線がはっきりしているベタ塗りのような平面的な描きかた、前はあまり興味がなかったけど、今見るといいですね。浮世絵のよう。彼にしか描けないなぁ。
マオリ族の文化、宗教感、すごくおもしろそうで、もっと知りたくなりました。
と、そんなわけで「わくわく楽しいタヒチ」ではいろんな絵を描いたり13歳の女の子と結婚して妊娠させたりやりたい放題なゴーガンでした。
その後の「辛くて悲しいタヒチ」はまた機会があれば紹介します。