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東北で「住民」が発信するメディアをつくった話③


*この記事は2021年3月に宣伝会議のwebメディア「AdverTimes」に3回にわたって寄稿した連載を、許可を得て転載したものです。2年前なので少し状況が変わっている部分もありますが、今一度過去を省みるためにも、ここに当時の文章を残しておこうと思います。(2023.1.2)

前回はこちら。

③メディアを、地域に開く

地域に住む「住民」が通信員として自らニュースをつくることで、それぞれの個人の興味・関心や人間関係のネットワークを生かした、これまでになかった個性豊かなニュースが次々と生まれる。それが、このTOHOKU360を立ち上げてからの5年間でわかった「住民参加型ニュースサイト」の意義でした。

これからもより多くの住民が参加できる場としてメディアを運営していくとともに、もっと地域に開き、地域の多様なアクターと連携しながら地域での暮らしをよりよくしていけるようなメディアに進化していけないかと考えています。

地域と連携して「行動するメディア」に

PV数やSNSのフォロワー数など、webメディアが設定するKPIはさまざまです。ただローカルメディアを運営する中で、地域メディアが設定すべき一つの重要な目標は「地域をどれだけよりよく変えることができたのか」なのではないか、と考えるようになってきました。

ローカルメディアには、地域で活動する多様な人々の存在を可視化して広く伝え、人と人とを結びつける力があります。今地域で起きている現象を言語化してストーリーとしてまとめたり、大きな課題を浮かび上がらせることもできます。そんなローカルメディアの持つ力を生かしながら地域で活動する人々と協力することで、みんなが困っていることに応えたり、改善を働きかけたりできないだろうか、と構想しています。

TOHOKU360では2020年から、仙台市市民活動サポートセンターと協働し「いづいっちゃんねる」という生放送のYouTube番組を始めました。「いづい」は仙台弁で「なんとなくすっきりしない、居心地が悪い」という意味。地域が抱えるさまざまな「いづい」問題にフォーカスし、視聴者みんなで何ができるのかを考える番組です。

「いづいっちゃんねる」の放送画面。通信員がMCを務め、毎回地域の課題に取り組む団体にインタビューしている

毎回特定の地域課題に取り組んでいる市民活動団体をゲストに呼び、MCを務める通信員がその課題が起きている背景や現場の状況、私たち一人ひとりができる行動について伺います。コメント欄では地域の視聴者が自由に意見や質問を書き込み、ゲストに問いかけることができます。これまで、路上生活を送る方への支援やコロナ禍での子ども食堂、ジェンダーや働き方の問題など、多様なテーマを取り上げて放送してきました。今後はさらにそれぞれの問題をみんなで深堀りしていくようなコンテンツや活動を展開していけないかと考えています。

ほかにも仙台を中心に独自の選挙報道を展開しているNPO法人メディアージとは、仙台市長選や参議院選挙の報道などで連携。各候補者のノーカットの街頭演説や独自インタビューを特集ページに掲載するなど、従来とは一味違う選挙報道を試みてきました。東北大学と連携したコンテンツや、地元高校生たちが被災地を取材する取り組みなど、地域のさまざまなアクターと連携して地域で一緒に行動していくような取り組みを始めています。

地元の高校生たちに取材執筆の方法を教え、地域を取材してもらうプロジェクト

TOHOKU360が拠点を置く仙台というまちは人口109万、城下町の名残からまちの造りもコンパクトです。行政の担当者や企業の経営者、大学教授、市民活動家、起業家、アーティスト、スポーツ関係者など多様な方々との距離感が近く、顔見知りになりやすい特徴があると感じています。まずはこの街から、地域の人と人をつなぐハブのような存在になり、一緒に地域のこれからを考えていくようなメディアになれないかと、実践を始めているところです。

「ニュースエコシステム」が育つ地域に

地域には新聞社やテレビ局だけでなく、情報誌やフリーパーパー、コミュニティラジオ、地域ブログ、YouTuberやインフルエンサーなど実にさまざまな情報発信の主体が存在します。メディアを論じる専門家には、大小さまざまなメディアが共存してそれぞれが情報発信する状態を、生態系になぞらえて「ニュースエコシステム」や「メディアビオトープ」という言葉で表現する方もいます。こうした地域情報の発信の担い手同士の連携が進めば、地域住民にとっての情報環境はよりよいものになっていくのではないでしょうか。

私は2018年から、NHK仙台放送局が制作する「ゴジだっちゃ!」というラジオ番組に毎週木曜日のパーソナリティーとして出演しています。声をかけて下さった杉尾宗紀アナウンサーは阪神・淡路大震災や東日本大震災を現地で伝えてきた経験から、いち早く「住民参加」のメディアの重要性を捉えていらっしゃいました。「ゴジだっちゃ!」では宮城県内の各市町村に「だっちゃ通信員」がおり、いつも各地のほっこりする季節の話題を届けてくれます。同時に、災害が発生したときには現地のきめ細かい情報を的確に届ける、非常に重要な役割を果たしてくれます。

2019年の台風19号が東北に大きな被害をもたらした際にはTOHOKU360の通信員も番組に出演し、近所の被害状況について話してくれました。東北各地はもちろん、シンガポールやシエラレオネにいる海外の通信員とも電話をつなぎ、現地の状況をリアルタイムで話してもらったこともあります。こうしてメディアがお互いの持つネットワークを生かしながらうまく協力していけば、地域で今足りない情報を補い合い、よりきめ細かい情報を届けることができるようになるはずです。

NHK仙台「ゴジだっちゃ!」を放送しているラジオブースにて

2020年からはNHK仙台の夕方のニュース番組「てれまさむね」の木曜コーナー「みやぎUP-DATE」にも出演し、テレビとネットメディアとがどう連携できるのかを模索しています。地域の情報を厚くしていくようなメディア間の連携は、私にとってもわくわくする挑戦です。

TOHOKU360では2017年から「仙台メディアフェスティバル」というイベントも開催しています。新聞社、webメディア、雑誌、小説家、詩人、漫画家、コミュニティラジオ、ご当地キャラクター、VTuberなど、地域で活動するさまざまなメディアが一同に会し、日ごろの活動を紹介したり、読者と交流したりするイベントです。2020年は「東北メディアフェスティバル」としてオンライン開催し、東北各地の発信者たちが集まりました。楽しいお祭りのようなイベントですが、そこから地域メディア同士の連携や新たな表現方法が生まれたら、との思いで開催しています。

2019年に開催した「仙台メディアフェスティバル」。地域の発信者が一同に会し、ブース出展やトークイベントで盛り上がりました

「ニュース」を、みんなのものにしよう

ニュースの門戸を開き、多様な住民や地域団体にその制作過程に関わってもらうことで、メディアが地域で発揮できる役割はもっと広がり、ニュースはもっと多様で豊かなものになれるのではないでしょうか。独占的で一方的だった「ニュース」を、みんなのものに。そしてみんなで一緒に地域の未来を考えていく。メディア運営者として、そんな試みを続けていけたらと思っています。

TOHOKU360は、運営体制も資金も、信じられないほど脆弱です。伝統メディアが長い期間をかけて一定の信頼を積み重ねてきたことに比べれば、TOHOKU360というメディアも、住民がニュースをつくるこの取り組みも、まだ幼児のように小さく、挑戦は始まったばかりです。これを読んで「住民参加型」のメディアや地域連携に関心を持った方、新しいメディアの形を作っていくこの挑戦に、ぜひ参加してみませんか?ご参加、ぜひお待ちしています。

(おわり)


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