欧州で原子力発電が持続可能な電源として認められそうです。
3行まとめ
EUは”EUタクソノミー”という重点投資する技術のリストを作っている
原子力および天然ガスがタクソノミーに含まれる方針が示された
つまり、EUは原子力に”持続可能”というお墨付きを与えた
EUタクソノミーとは?
概要
タクソノミーは”分類”という意味で、ざっくり言えば、今後の社会のために投資すべきクリーンな技術をリストアップしたものです。
気候変動やSDGsといった課題を達成するためには、より良い技術に多くの投資を集める必要があります。しかし、どの技術が良いのかを個別に判断するのはとても大変。そこで、事前に各国が相談して「EUはこの技術に期待しています!」ということを宣言しておくわけです。
行政は、タクソノミーに挙げられた技術を優遇するように制度設計を行うことができます。
企業は、タクソノミーに挙げられた技術であれば安心して投資することができます。
投資家は、投資先を選ぶ根拠として、タクソノミーに挙げられた技術を参照して考えることができます。
良い技術が成長すれば社会全体のメリットになって経済も回ってみんなハッピー!
このように、社会全体として良い技術を活用していけるようにするための指標として導入されたものです。
EUタクソノミーはなぜ重要なのか
EUは持続可能な社会を実現するために欧州グリーンディールという政策を打ち出しています。
気候変動対策を中心に、人権問題の解決や循環型社会への移行――すなわちSDGsを達成するために、2020年代に1兆ユーロを超える投資を行う計画です。これらの大規模な投資を円滑に、かつ効果的に活用するために、EUタクソノミーは重要な意味を持ちます。
EUタクソノミーにおける原子力の位置付け
こちらはちょうど1年ほど前の日経記事。
言うまでもありませんが、原子力発電はその発電過程において放射性廃棄物を発生させます。EUタクソノミーは”持続可能”であることを求めるものですので、処理の難しい放射性廃棄物を発生させる原子力発電を含めるかどうか、合意できずにいました。
賛成側は、高安定かつ低炭素な電源であり、雇用を創出し、発電技術が確立されていることなどから、含めるべきだと主張。
反対側は、放射性廃棄物の発生や事故のリスク、世代を超えて残る問題であることなどから、除外すべきだと主張してきました。
今回”持続可能である”と判断がされそうですが、EUも一枚岩ではありませんので、これまでどおり国ごとに異なる電源構成を持つことになります。
欧州全体では約180基の原子力発電所が存在しますし、フランス、イギリスは原子力発電所を新設していく方針です。反してドイツはかねてから脱原発方針であり、「もはや原発の延命はできない」という発言もされていました。
期待される原子力技術
原子力発電といっても、いろいろです。今後、投資が期待されるのはどういうものでしょうか。なお、ここはタクソノミーから読んだ内容ではなく、個人的な考えです。
まず、現在多く使われているのは軽水炉という、水を使って冷却する大型の発電所。これまでに多くの実績があるため、かなり安心して使うことができます。
このタイプに関しては、安全性を高める、長寿命化する、メンテナンス性を高める……といった部分に技術開発の余地があります。(あるはずです。原子炉設計は専門ではないのでご容赦ください…)
また、新たに原子力発電所を建設するのにも多額の費用がかかります。
今使えるものを最大限活用して、化石燃料の使用を減らしていく、ということのために投資が期待されます。
つぎに、SMR(小型モジュール炉)のような、新しいタイプの炉です。ビル・ゲイツ率いるテラパワーや、欧州ではロールス・ロイス社などが開発を進めています。
小型で出力が小さいですが、大型のものより安全性が高いとされています。商業レベルでの活用を目指して建設が始まりつつあるので、その実現に向けた投資が必要。
原子力の文脈では、核融合も期待される技術です。
ただ、まだ実証炉のレベルなので、実際に活用できる段階に到達するには10年以上かかるのではないかと思います。
2050年に間に合わせるのは、さすがに期待しすぎかなーと諦め気味です。
その他、発電以外ではバックエンド技術、すなわち原子力発電所の解体や、廃棄物処理にも投資が必要です。
埋設するための技術、長期間安全に保管する技術、放射性廃棄物を短寿命化する技術などなど。このへんはあまり儲からない技術なので不人気かと思いますが、重要です。国土の狭い日本にとってはとても重要です。がんばれEU。頼む。
まとめ
昨年、EUでは風力発電の出力不足や天然ガスの価格高騰により、電力価格の高騰や停電リスクを経験しました。
また、ロシアからの天然ガス供給も期待通りには進められておらず、今後の展開も不透明です。ロシア側からすれば、エネルギー供給という強烈なライフラインを握っているので、外交上非常に有利な立ち位置を取れます。
そのような状況が原子力発電に頼らざるを得ない状況を生んだ……という意見もありますが、個人的には、気候変動やSDGsといった非常に難易度が高い課題を解決するためには、使える技術を総動員するしかなく、様々な経験が積まれてようやく合意に至ることができたんだと考えています。
原子力という社会合意の難しい技術について、トップダウンではありますが明確な方針が出されたのは良いことです。
これによって、技術を総動員して気候変動に立ち向かっていくという大方針が明確化され、EUという一大勢力のパワーを統一することができるはずです。
もちろん、大方針だけではなくて、具体的に実現させていくための制度設計や運用がなければいけません。
集団のパワーを揃えてぶつけるのは非常に効果的ですので、ぜひとも上手く進んで欲しいところ。がんばれ~。