オリンピックの金メダルと、夢。


先日、霧島酒造がスポンサーとなり九州の匠たちを取材する番組【匠の蔵】にて、私が師事する秋山眞和が取材を受け、その内容が放映されました。


その全5回で構成される最終回で、秋山はこう語っています。(1:21頃)

− 秋山には、夢がある。
「3年後の2020年の東京オリンピックの時の、メダルのリボンを、この伝統の絹で、しかも金メダルの、メダルのリボンに使って、もらいたいなと思っています」


そう話す姿、表情、繭を抱く手を見て、自分の思いではないはずなのに

「何としても実現したい」と思ってしまいました。

ちなみに、ここで述べている「伝統の絹」とは、”小石丸”と言われる種類の蚕で、奈良時代には既に存在していたとされる日本の現蚕種です。

(画像右が小石丸から取った糸)

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少し話がそれますが、前提を。

秋山は1966年に綾の手紬染織工房を創設後「古代の色を全て復元したい」との思いで、まず「古法の藍染めの復元」から取り組み始めました。

当時は本藍染めと言っても苛性ソーダなどの化学薬品を用いた染色が和装業界でも当たり前であったため、化学的なものを一切使わず、微生物の発酵力と灰汁など、自然の素材だけで藍染めを行うことは時代に逆行したものでした。しかしながら「宮崎は織物の産地ではなかったため、組合もなく自由に取り組むことができた」ため、その復元に成功します。

その結果「化学薬品を一切使わない藍染め≒天然灰汁発酵建て藍染め」は、秋山の代名詞となりました。


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その後、秋山が取り組んだのが「藍染めに最も適した絹糸の追究」でした。

藍染めは液体がアルカリ性のため、絹糸が多少痛みやすくなります。其れゆえ絹の種類によっては糸に白い粉がふいたような「ラウジネス現象」と呼ばれる毛羽立ちが起こります。しかしそれでは藍の美しさは最大限に引き出すことができない。ならば最適な糸を探すしかない、との思いでたどり着いたのが

糸質は最高だが生産性が悪く、業界では敬遠されていた”小石丸”でした。

バッシングを受けながらも結果的には自社生産に成功したのですが(正確には他でやってくれるところがなかった。笑)、その品種は偶然にも皇居の紅葉山養蚕所で皇后さまが養われているものの一つでした。

小石丸養蚕の経緯はこちらから詳しくご覧いただけます。

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秋山のいうリボンには、この小石丸を使って、さらに帝王の色とされる”貝紫”で染めたいとの思いもあります。

貝紫染めとは、特定の貝の内臓にあるパープル腺から染料を抽出して染めるものです。古代エジプト時代には存在していたものですが、その染色技法は途絶えてしまっていました。

秋山は古法藍染めの復元に成功後、貝紫の技法復元を目指し世界各国を飛び回りました。その結果、藍染めの染料の分子式と貝紫の分子式が酷似していることに着目し、藍染めの液と同じ環境を作り上げることができれば貝紫による糸染めが可能になるのではと考え、還元染法と呼ばれる染色に成功、その後日本産の貝を用いての実現に至りました。

この業績から、1995年度の卓越技能者「現代の名工」指定を受けています。

貝紫のショール


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ここで伝えたいのは、「うちの先生すごいんだぞ!」という自慢ではなく

「これだけの好奇心と探究心を持って価値を生み出してきた人がいることを知ってほしいし、メダルのリボンならそれができるんじゃないか」という思い。

そして何より「秋山の願いを叶えたい」という弟子としての思いです。


手前味噌ではありますが、秋山眞和が取り組んできたことには、その技術だけでなく、経験を含め「本質的に大きな価値」が存在します。その価値は伝えられていくべきものですし、さらに現在の技術と組み合わせて発展されるべきものです。

公式・非公式、いろんな方法がありますが、なんとかして実現できればと思っています。


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公式での手段は政治力を含めた取り組みが必要ですが、非公式ならもう少し多様な取り組みができるかなと思っています。

今ざっくり浮かんでるのは、

「内村航平選手、萩野公介選手など特定のアスリートのファンの人たちとオリジナルメダルリボンとして製作し、応援の意思としてのプレゼント」する事業です。

やっぱりクラウドファンディング的なものになるかな。大量生産ではなく個人アスリート向けならpolcaでもできそう!

まずは世界選手権とかでも金メダル取ったシーズンオフに渡せたら、とか。

幾つかの業者さんと提携して、複数タイプ作ってとか。


もちろん、公式できちんと使ってもらえるのが一番かもしれないので、そこはなんとかして頑張る必要が出てきますが、なんとか、したいなぁ。

できないかなぁ。

どうやったらできるかなぁ。


絶対先生喜んでくれると思うんだよなぁ…。



もちろん自分でも考えますが、アイディア・企画あったら是非教えていただきたいです。


書き手:二上拓真




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