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本格推理の楽しみかた。7月の読了本まとめ12冊

今年の2月分から始めて、なんだかんだ続いてる毎月の読了本まとめ。今回からいちばん下にマイベスト3をつけ加えてみることにした。

7月は正直、自分にハマらない作品がちょこちょこあったけど、それだけ幅広く読めたということかな。まあミステリばかりですけど!

※タイトルの推理小説の楽しみかたは「土曜日は灰色の馬」の項目に。

「ユージニア」恩田陸

静かな時の中にこそ満ちている、世界の真実の音楽に耳を傾けること。

近隣住民を巻き込み、旧家で起こった大量毒殺事件。未解決のまま時は過ぎ、証言者たちが語る「真実」を繋いでいくとーー?

物語の中心にあるセンセーショナルな事件とはうらはら、物語はどこまでも静かで、それゆえに耳をすますと、ザーザー降りの雨音や音楽が流れ聴こえてきそうな気がする作品。

事件とは無関係の人たち、いわゆる世間の関心、好奇心、期待がどんどん大きく膨らんでいく。その様子が読んでいて厭になるけど、わたしも知りたがりのひとりに変わりなくて、釘をさすみたいにピシャリと投げ掛けられる言葉に胸が衝かれる。

「バスカヴィルの犬」アーサー・コナン・ドイル

まあ聞いてくれーーきみはこれまでの事件のときと同様、この事件においてもかけがえのない存在だよ。

一族にまつわる魔犬の呪いで主は死んだ? 後継者の若者を守り、事件を解明すべくホームズとワトソンが立ち向かう!

もう和製ホームズはディーン様以外考えられない…

ディーン・フジオカ×岩田剛典のホームズ映画「バスカヴィルの犬」を大スクリーンで堪能してきた帰りに原作を購入。当たり前だけどまったくストーリーが違うので安心した。顔面最強バディは心から福眼もので下手な化粧品よりも効くんだけど、脚本がうーん…という感じで。

ワトソンの推理お披露目からはじまるほのぼのとした導入と、オカルティックな展開が最高。話はそれるけど、名探偵と助手のやりとりが素敵な実写といえば、玉木宏×堂本光一の御手洗潔シリーズ「傘を折る女」が超絶どストライクだったんだけども、円盤化も再放送もなくて残念。

「魚影島の惨劇」大石圭

人気ホラー作家が手掛ける孤島×連続殺人ストーリー。

主人公は美しい青年、舞台は作家志望の人たちが自給自足で暮らす島、そして次々と仲間たちが殺されていく惨劇ストーリー。と、そそられる要素満点で手にとってみた。

おどろおどろしい惹句のゴシップ記事のような読後感。さすがホラー作家が書いているだけあってシチュエーションには力が入っているんだけど、孤島ミステリーを期待するとすこし肩透かし…。

「土曜日は灰色の馬」恩田陸

恩田陸が愛する小説、マンガについて語ったエッセイ集。

読んでみたい作品や思わず唸った解説多数の1冊のなかでも、本格推理小説に言及した一編は探偵小説好きとしては溜飲が下がる思い。

本格推理小説は、伝統芸能の世界なのだ。ケレンと様式美が全てなのである。型があり、型を踏まえ、ギリギリのところで型を壊しつつ、古い馴染み客を納得させるのが芸の見せ所なのだ。歌舞伎を見ても、なぜあんな変な化粧をしてるんだ、なんであんなところから出てくるんだ、なんであんな奇妙なポーズなんだとは追求しないはずである。

推理小説はリアリティがない云々いわれたら、したり顔で楽しみかたを教えてあげたい。「だって、様式美を愛でるジャンルですからね

「硝子の塔の殺人」知念実希人

ミステリーフリークのお金持ちが建てた硝子の“館”。そこに招かれた医者、霊能力者、刑事、作家、そして名探偵。殺人の舞台は整ったーー。

SNSで話題になっていた1冊。感想ツイートで実際のミステリー作品についての蘊蓄がふんだんに盛り込まれているのもおもしろいと見かけて手にとってみたけど、一般人から見たマニアってこんな感じなのかな…って温度差を感じてしまった。

とにかく登場人物のキャラが濃い。ミステリーとしては捻りがきいてた!

「予言の島」澤村伊智

有名な霊能力者が死ぬきっかけになった、独自の因習が残る島。死んだ霊能力者が予言した日、その通りの死人がひとり、ふたりーー。

一読目はミステリー、二読目はホラー、という帯だか感想をちらほら見かけて、「ん? 順番逆では?」と興味を惹かれて手にとってみた。孤島が舞台というのも見逃せない。

読んでなるほど。たしかに最初読んだらミステリー、読み返すとホラーという納得の展開。すぐに既存の超有名作品のオチを思い出して、えらく大胆だなあ…と思ったけど、オカルティックな出来事にしっかりロジックを展開して解き明かしてくれているのはうれしい。

オカルトミステリー、開拓したいジャンルだな。

「殺人は容易だ」アガサ・クリスティー

ぼくはつねづね思っているのですが、人生で当面する最も不愉快な事実の一つは、だれかが死ぬと、ほかのだれかが得をするという事実です

小さな町で密かに行われている連続殺人を警察に伝えにいくと言った老女が、車にはねられて死んだ。乗り合いになった列車のなかで半信半疑に聞いていた主人公だったが、もしかして…と町に向かう。

あらすじを読んだときはかなり期待したんだけど、これまでに読んだクリスティー作品のなかではいちばん影が薄いかも。物語をいい感じに盛り上げてくれるはずのロマンスがちょっとチープだったかなあ。

真犯人はギリギリまで分からなかった!

「ねじの回転」ヘンリー・ジェイムズ

信じがたいほど美しいのです。(中略)あの子の前にいると、優しくしてやりたいという愛情だけが残って、あとはみんな流されてしまうーー。

人気のない館でひっそりと暮らす幼く美しい兄妹。家庭教師として送り込まれた主人公は、兄妹を悪の道に引きずり込もうとする霊を目撃してーー。

ホラー小説の先駆的作品。しみじみ「ねじの回転」を読んで思ったのは、おもしろいホラー小説に過激なスプラッターや血みどろ表現は必須条件ではないなということ。淡々とした文章のなかから、じわりと恐怖がかきたてられる。

引き込まれるように読んで、ぷつりと幕切れ。どうしても終わった気がしなくて、余韻すら怖かった。

「狂った殺人」フィリップ・マクドナルド

のどかな田園都市にあらわれたブッチャー(虐殺者)。善良な若者たちが次々と手にかけられ、警察には挑発的な手紙がーー。

いい意味で淡々と進む、古きよきミステリ。犯人を追い詰めるロンドン警視庁のパイク(主人公)の物腰の柔らかさ、スマートな立ち振舞いに胸きゅん。訳者のあとがきを引用すると

アーノルド・パイクは無駄口を叩かない。好き嫌いなどの主張はせず、知識のひけらかしもなく、経験談も語らない。慇懃さを盾にして敵愾心を退け、冷徹さをくるんだ柔らかな物腰を武器にして対立する者に切り込んでいく。(中略)ただ、パイクの感情は雄弁だ。仕草で語る。表情で語る。普段は物静かな紳士だが、いいアイディアが思いつけばすぐに飛び出していき、腹心の部下には荒い言葉遣いも見せる、意外と直情的な一面がある。

すきぃ…!

「愛しすぎた男」パトリシア・ハイスミス

それでも、いつか彼女はこのいえで、あるいはどこかで、自分と暮らすことになるだろう。

人妻のアナベルを運命の相手とするストーカー視点のサスペンス小説。アナベルと一緒に暮らすために購入した一軒家で妄想を膨らませ、現実との解離が激しくなるにつれ破滅が近づいていく。

純粋に彼女のことを愛しているようであり、しかし結局は自分のことしか考えていない。ルドンのキュクロプスを彷彿とさせる、愛を言い訳にした一方的な感情はこわすぎる…。

「ブラッド・ブラザー」ジャック・カーリイ

刑事の「僕」の兄は、連続殺人鬼。収容されていた施設から兄が逃げ出し、凄惨な殺しがはじまるーー。

どこか歪んでいて依存的な兄弟の物語って大好きだからどストライクな作品だったんだけど、シリーズものの4作目と後から気づいた…。話の感じから「羊たちの沈黙」のレクター博士的な、捕まった身ながら弟の仕事を頭脳で手伝った的なこともあるのかな。

とりあえず、逃走後のお兄ちゃんの潜伏先や資金確保がスマートでいかしてました。

「精神病院の殺人」ジョナサン・ラティマー

名探偵が収容された精神科のサナトリウムで連続殺人が発生。個性的な患者に美人看護婦、仲の悪い医師たち。誰が嘘つきで犯人?

そそられるタイトルとはうらはら、読んでみるとミステリというよりはハードボイルドな作品。…個人的にハードボイルドってハマらないんだよなあ。女とお酒に弱い探偵よりも、ちょっと奇人で紳士な探偵が好きだ!

ハードボイルドが好きな人にはおすすめだと思う。

2022年7月のマイベスト3冊(順不同)

  • 土曜日は灰色の馬

  • 狂った殺人

  • ブラッド・ブラザー

「土曜日は~」は毛色ががらりと変わるけど、三浦しをんの「三四郎はそれから門を出た」と並んで大好きな読書エッセイ本。読んでいる最中から、次の物語を早く手に取りたくなってウズウズする。本への愛が詰まった1冊。

「狂った殺人」は物語がめちゃくちゃ面白い~って感じではないけれど、シリーズで読んでみたくなる主人公の格好よさにやられた。翻訳だけど良い意味で淡々とした、乾いた文章が好みというのも大きい。

「ブラッド・ブラザー」は、兄弟愛が中心にあってどう転んでも私好み。事件内容がどれもサイコ極めているけど、客観的に書かれていて描写が生々しすぎないのも好都合。海外のシリアルキラーものどんどん読んでいきたい。

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