お洒落をして笑顔でいれば、ショッピングも食事も、ぐんと楽しい時間になる
朝早めにホステルを抜け出してメトロに乗り、広場の一角にあるカフェでカプチーノとチョコクロワッサンをオーダーした。イタリア人は毎朝、街角のカフェでエスプレッソをぐいと立ち飲みするらしいとは聞いていたが、先客のワンちゃんのお散歩中のマダムがまさにそうで、カップを片手にぐい飲みすると、「グラッツェ、チャオ!」と、お店を出て行かれた。年季が入っていて格好がいい。
朝食後にバスに乗って出かけたのは、イタリアとの国境にほど近いスイス国内のアウトレット・モール、フォックスタウンだ。前日のツアーに気を良くして、ショッピング・ツアーも申し込んでおいたというわけだ。数年愛用していた財布がくたびれてきていて可哀想なので、風水的にも吉らしい、西への旅行中に新しいお財布を手に入れようと算段していたのだ。せっかくだったら、ちょっといいブランドがいいし、安く買えるともっといい。
ミラノを出て、風光明媚なコモ湖を車窓に眺めながら、たったの1時間でモールに到着する。そこから、バスが迎えにくる17時までがショッピングタイムだ。
これでもかと高級ブランドが並んでいるので、一軒一軒、お財布や小物を中心にゆっくりと見て、気に入った財布を見つけられた。定価のほぼ半額でお買い得だったし、デザインも好みだ。お会計をしてくれたお兄さんと、互いに満面の笑みで「チャオ!」と声をかけあったら、良い買い物をした充実感がわいてきた。
財布を探していただけでもう14時になってしまったので、ランチをとって休憩し、あとはバスがお迎えに来てくれるまで、モール内をお散歩する程度にいろんなショップを見て回った。アウトレットだと、高級ブランド店でもそこまでベタベタ触らなければ、勝手に商品を手に取ってもそんなに嫌な顔はされないので気が楽だ。この際少し、質の良さとはなんたるかの勉強をさせてもらうことにした。といっても、ショッピングに出かけるにあたって、ちゃんとマダム扱いしてもらえるように、綺麗な白のワンピースを着て、旅行中ほとんど履いてなかった高いヒールのウエッジソールのサンダルでおめかししてきている。ヨーロッパでは、ショッピングにも適した装いがあるのだ。
例えばパリでは、綺麗な格好をしているか、カジュアルな姿でいるかで、周りからの扱われ方が段違いなのだ。おしゃれをして、ニコニコしていると、みんなとっても優しくしてくれる。こちらだって、丁寧に優しく接してもらえたほうが気分がいいので、ちゃんとお洒落を頑張ろうという気にもなれば、「マダム」と立派な女性として扱ってもらうと、自然と背筋が伸びるものだ。
お買い物の間ずっと高いヒールで歩き回るのは正直しんどいのだけれど、お店の人に「マダム、お手伝いしましょうか?」と、丁寧に言ってもらえるんなら、そっちのほうがいい。
残りの買い物時間では、日本円でなんと千円程度という、超お買い得なワンピースも手に入れた。あとは高級店で目の保養をしただけ。お土産によさそうなものも選べるだろうと期待していたのに、そこは期待はずれだった。
帰りのバスもきっかり1時間でミラノに到着。まだ少し時間が早いので、ドォウーモ近くのショッピングストリートをぶらぶらすることにした。銀座の中央通りのように道も広く、両側にいろんなお店が並んでいて楽しい。素敵なミラノマダムも歩いている。白髪をベリーショートにしたマダムが、ビジューのついた濃いピンク色のサマードレスに深い赤色のサンダルを合わせていて、ものすごく格好がよかった。ミラノのマダムを見ていると、年をとるのも悪くないなぁと思える。
アウトレット・モールでランチを食べすぎたので、夜はもう食べなくてもいいかもと思いながら、宿近くまでメトロで戻ってきて歩いていると、夕立の気配がした。ポツポツと雨が降ってくる。慌てて角のピッツエリアに駆け込んだ。
雨宿りの間だけだからと、前菜のみオーダーするつもりだったのに、「うちの名物はパスタかピザだから!」と断言されて、まあいいかと、ペスカトーレと白ワインを注文した。
これがまた、すごく美味しい。このピッツエリアは地元の小さな食堂といった感じで、お値段もお手頃(このあと、ティラミスを頼んで14ユーロ)だからか、家族連れやカップルで店内は満席だった。
目の前の席では、おばあちゃん、お母さん、お孫さんの若い青年が食事をしていて微笑ましい。老年のカップルも中年も、若いカップルもいる。1人で食事に来て、ろくにイタリア語を話さない私にも、おじさまウェイターさんが、暖かいサービスをしてくれた。「美味しい?」と目で聞くので、「美味しい!」とニコニコしていると、ウィンクまでしてくれるのだ。食事がぐんと楽しくなる。彼はきっとウィンクで店の売り上げを2倍にしているんだろう。
大盛りのペスカトーレをもりもり食べて、ティラミスも「むふむふ」といただいて、白ワインでほろ酔いで、とっても気分がいい。イタリアに長期滞在したら、絶対に太るに違いないと悟った。
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