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その時、その場所で観るから面白い。だからアートをめがけて旅をするんだ

3日目のミュンスターの朝も、晴れた。慣れない自転車で身体はへたばり気味だが、前日と変わらぬ勢いでワクワクと作品探訪に向かった。なにせ、ミュンスター彫刻プロジェクトは、10年に1度しか開催されない展覧会なのだ。次にこの街に来るのは、きっと10年後だろう。

各展示場所へは、この日も自転車移動だ。ミュンスターは人口の倍の自転車保有率だそうで、自転車用道路も整備されていて走りやすい。が、みな猛スピードで飛ばしているので、交通ルールを守らないとちょっと(かなり)危ない。「逆走しないの!」とか、「抜かされるときは右に避けるのよ!」と、地元の人に注意されたりなんだりして、なんとなく様子がわかってきたので、前日よりはすいすいと移動できるようになった。

さて、「彫刻プロジェクト」と言われると、渋谷のハチ公とかモアイ像のような駅前のブロンズ像をつい想像してしまうのだが、ミュンスターではサイトスペシフィック(場所固有のあり様を作品のコンセプトに取り込んで制作される、その場所のために作られた作品)な作品を存分に楽しめる。

ブロンズ像とはいっても、少々面白おかしくブロンズ像のあり方を拡張させていたりする。

「奇妙な記憶に残る噴水」になっていたのは、緑豊かな散歩道の途中にある池。この Nicole Eisenman の作品は、左側は石膏像だが、右の2体はブロンズ製なため、今後も恒久設置されるのだろう。

彫刻と建築のあいだに存在するかのような作品も。

ルーマニアにあるペレシェ城を名前の由来とする女性アーティストユニットPeles Empireによる作品で、城が持つ歴史的な構造を再構築したのだとか。私には城というよりは教会に思えた(欧州の城に行った経験がないからかもしれないが)。

工事現場に近接して設置されていたため、一瞥しただけでは「工事用の足場か何か」と思ってしまうくらい場に馴染んでいたのが、Christian Odzuckによる《OFF OFD》。

金融庁の建物の一部だった部材を再構築しているそう。かつて金融庁を建てた際のプロセスなどについてもコンセプトに織り込まれているようだ。建築の文脈で鍛えられてきたアーティストは、コンセプトワークやアウトプットに独特の品の良さや視点の広さがあり、いつも気になってしまう。

ほかにも、場所に馴染んでいるのに、「おや?」と注意深く観てみると、作品だったり。

すぐ上の美術館の壁に設置されているのは水平器。John Knightによる作品《A Work in situ》だ。2014年にオープンしたLWL美術館は、ちゃんと水平だった。アーティストの遊び心が楽しい。

こうした作品は、コンセプトを丁寧に読み込んでいくとより楽しめる。旅の合間にせっせと図録を読もうと思う。

既存の場所をうまく活用した作品もあった。

市街地の歴史あるディスコでは、都市とポップカルチャー現象を描き出す映像展示を。

どの都市にでもありそうな、アジアンエスニックの食料雑貨店の地下では、メキシコとトンネルがつながっているらしき映像が上映されていた。

アジアンエスニックの食料雑貨店、国境、トンネル、と、キーワードを並べただけで、移民問題を思い浮かべてドキドキしてしまうのだが、女性アーティスト Mika Rottenberg の映像作品はカラフルで奇妙な面白みたたえていて、作風にはシリアスさはない(そこがまた風刺の作法を連想させるのだけれども)。どこかで彼女の作品を観たことがあったが、どこだったろうか。

どの作品も、本当にすばらしかった。

そして、その時その場所でしか観られないパフォーマンス作品の鑑賞も至福だ。

現在でもミュンスターの街の中心といわれる、平和のホール(Peace Hall in the Historic City Hall)では、Alexandra Pirici 率いるパフォマーが、ミュンスターの歴史を現代に呼び覚ます美しいパフォーマンスを行っていた。

充実の鑑賞体験を与えてくれたミュンスター彫刻プロジェクトも、Piriciのパフォーマンスで見納めだ。心地よい後味を残してくれた。

居心地のよいミュンスターを離れたら、次はカッセルに向かう。

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