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[ポーランドはおいしい] 第15回 トンカツ東西比べ

スワヴォーミル・ムロージェクの短篇「請願書」で、「私」が給仕人に請願するのは、ロースカツレツ数量一個である。そして可能であればロースカツレツのわきに、できれば出来たての煮込みキャベツを添えてほしい、それとは別にジャガイモもお願いしたいと付け加える。

ロースカツレツ(kotlet schabowy コトレト・スハボーヴィ)はポーランド料理のなかでもポピュラーなメニューだ。しかし日本のトンカツとは食べ方がちょっと違う。

ご飯とみそ汁がつかないのはもちろんだが、パンではなく、ゆでたジャガイモを添える。ポーランドでは肉料理にゆでジャガイモかフライドポテトを添えるのが普通である。

付け合わせのキャベツは生の千切りではなく、たいてい煮込んである。ポーランドではキャベツを生で食べることはほとんどない。煮物(ビゴスやロールキャベツなど)や塩漬け発酵したもの(ザワークラウト)が主流だ。この煮込みキャベツは生のキャベツを煮る場合もあれば、塩漬けキャベツ(kiszona kapusta キショナ・カプースタ)を煮て作ることもある。

キャベツを煮ているところ(2004年7月撮影)

作り方はこうだ。塩漬けキャベツ(ザワークラウト)は苦味を取るため1、2度ゆでこぼし、ざく切りにする。鍋にキャベツを入れ、水をひたひたにはって、ローレル、オールスパイス、クミン、トマトピューレ、各少々を加えて30分ほど煮る。別の鍋で小麦粉とバターを弱火で炒めてルウを作り、キャベツの鍋に加えてさらに煮る。とろとろにやわらかくなったら出来あがり。

ポーランドには日本と同じキャベツのほかに、イタリア・キャベツ(kapusta włoska カプースタ・ヴウォスカ)という葉のちぢれたやわらかいキャベツがある。また、白菜のことをポーランド語では kapusta pekińska カプースタ・ペキンスカ=北京のキャベツという。日本よりは小ぶりの白菜が最近出回るようになった。日本人は白菜を鍋物や漬け物にするが、ポーランド人は生のまま刻んで甘酢ドレッシングで和えてサラダにすることが多い。ポーランドと日本では、キャベツと白菜の食べ方がどうも逆のようだ。

クラクフの今はなきカフェ・ミラノのロースカツレツ。
奥の小鉢が煮込みキャベツ(2005年8月撮影)

ポーランドにはトンカツ専門店もないし、トンカツソースというものもないので、味は塩胡椒で調節する。ちなみにポーランドの飲食店のテーブルには「マギ」と呼ばれる醤油とウスターソースを足して2で割ったような調味料が置いてあることがある。日本人の口に合うので、これをトンカツにかけてもよい。でもマギは通常、スープに使う。

さて、ポーランド人のBが浅草の洋食屋さんでトンカツを目にしていちばん驚いたのは、ナイフとフォークなしで箸だけでどうやって食べるのかということだった。まるのままかぶりつけとでもいうのかと、おそるおそる箸で持ち上げてみると、トンカツはあらかじめ約2センチ幅に包丁で切ってあるのだった。この、あらかじめ切ってあるということに、Bはいたく感心していた。言われてみればヨーロッパでは大きな肉料理を食卓で切り分けることはあっても、厨房で切っておいてから出すことはあまりないのかもしれない。

註:
1. スワヴォーミル・ムロージェク「請願書」は『所長』芝田文乃訳(未知谷 2001)所収

2006.1.9

いちばん上の写真は2012年6月にクラクフで撮影したロースカツレツです

©SHIBATA Ayano 2006, 2017

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