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【エッセイ】見つからない言葉✧♡

 仕事をしていた時、美術教師なので、美術部を担当していたが、美術部のある学年に3人の仲良しの女の子がいて、華織、詩織、さつき、と言う名前だった。私は時々彼らに向かって、

「沙織!」と呼ぶことがあった。
 沙織と言う名前の子は誰もいないのだから誰も、返事しない。
 
 あらら、間違えたかと私は思う。
 3人はなにかにやにや笑っている。
 いったい3人のうちの誰を呼んだのか?

 ある時、美術部員のロッカーを美術室に作ろうとして、みんなの名前をテプラで作った。うっかり、「沙織」という名前のテプラも3枚ぐらい作ってしまった。

「あんたたちの友達で沙織って名前の人、いない?
 このテプラあげるけど」

と言ってみたけど、いないらしく、誰ももらっていかない。
 みんな、「要りません、先生」と言っている。

 2020年、緊急事態宣言が発動され、突然、3月が生徒まるまる休みになった。なんだか、授業の1年の決着もついていないことが全く納得できない。
 授業をしなくていいのだから事務仕事をしていたが、全く、退屈。
 教師は、生徒がいて、なんぼのものなのだ。

 あまりに退屈過ぎて、体力が有り余っていたので、毎朝、早く起きては、小説を書いた。コロナ禍で、3月が休みになって大喜びの少年の話。
 少年は、自分で自分の時間割を作る。
 体育、美術、家庭科、国語、と自分の好きな教科だけの時間割で。
 少年のモデルは、当時、出会っていた少年たちのいいとこどりでコラージュした。いいね。理想の少年だ。
 やはり、少年には、恋とかつきものなんじゃないだろうか。
 ちょっとやっかいな幼馴染を登場させることにする。
 名前は、「沙織」にした。
 登場人物を決めたら、彼らが勝手に動いて物語を作ってくれる、不思議な体験をした。今、キミがそれをやるってことは、作者の私も知らなかったぞ?ということが度々起こる。キャラクターを作るって不思議なことだなあと思ったのである。そして、その話を、夏目漱石の道草になぞらえて、104話まで描き終えた時に、不思議に思った。

 かおり、しおり、さつきの3人に、うっかり、
「さおり!」って間違って呼びかけていたけど、
 この名前は、私の小説のために生まれた名前だったかも、と思ったのだ。

 美術部員の中には見つからなかった言葉だったけど、
 その言葉が自分の小説で大活躍したことが、とても不思議だった。

 
 私の小説のために生まれた?

 沙織?