マガジンのカバー画像

知恵

115
この知恵はゲットしておきたい。もう一度見返したい。そんな記事を集めました。
運営しているクリエイター

#読書感想文

アナログ派の愉しみ/本◎十返舎一九 著『東海道中膝栗毛』

江戸の戯作者と 文豪ドストエフスキーの共通項は 忘れもしない、大学で新谷敬三郎教授のロシア文学の講義に初めて出席したときのことだ。あのころ新谷教授といえば、ミハイル・バフチンのドストエフスキー論やロシア・フォルマリズムの論文集をいち早く翻訳・紹介して斯界の第一人者の地位にあり、きっとエキサイティングな所説に接することができるだろう、と固唾を呑む思いだった。すると、痩身長躯の教授は口をへの字にしてこんなふうに語りはじめたから、わたしは座席から転げ落ちそうになった。   「ド

アナログ派の楽しみ/スペシャル◎へそまがり世界史(創作大賞2024応募作)

へそまがり世界史   きれいはきたない、 きたないはきれい。  ――魔女の叫び(シェイクスピア著『マクベス』より) ジュリアン・ジェインズ著『神々の沈黙』われわれはふたたび 神々の声と出会ったのか 自分は一体、何者なのか? その答えに少しでも近づくためにわれわれは本を読むのだろうが、米国プリンストン大学の心理学教授、ジュリアン・ジェインズが著した『神々の沈黙』(1976~90年)もまた、目からウロコの落ちる示唆に富んだ一書であることは間違いない。  骨子は、はなはだシ

アナログ派の楽しみ/スペシャル◎へそまがり性愛学(創作大賞2024応募作)

へそまがり性愛学   あが身は、成り成りて成り合はざる処一処あり。  あが身は、成り成りて成り余れる処一処あり。   ――伊耶那美命と伊耶那岐命の対話(『古事記』より)   O・ヘンリー著『最後の一葉』そこには意外につぐ 意外の事態が   かつて国語の教科書で『最後の一葉』(1905年)に出会って、当たり前のように感動した覚えのある者にとって、作者のO・ヘンリー、本名ウィリアム・シドニー・ポーターが犯罪者として刑務所に服役した経歴の持ち主だとは、少なからず意外の念を催

短編ミステリで夜更かしを。フレドリック・ブラウンの 『真っ白な嘘』

前回のフレドリック・ブラウン短編では、星新一翻訳の『さあ、気ちがいになりなさい』を紹介した。 今回は、同じくフレドリック・ブラウンの短編『真っ白な嘘』を見ていこう。 こちらは2020年の新訳版(越前敏弥翻訳)なので、すごく読みやすくなっている。 思わず夜更かししそうなドキドキの連続。 ミステリ色が強く、驚きと鮮やかなオチがお約束だ。 フレドリック・ブラウンは1940~60年代に活躍したアメリカの作家である。 詳しい紹介記事は下記をどうぞ。 **************

何も言わないでおく

 今回は「簡単に引用できる短い言葉やフレーズほど輝いて見える」という話をします。内容的には、「有名は無数、無名は有数」という記事の続編です。  前回の「名づける」の補足記事でもあります。 *「「神」という言葉を使わないで、神を書いてみないか?」  学生時代の話ですが、純文学をやるんだと意気込んでいる同じ学科の人から、純文学の定義を聞かされたことがありました。  ずいぶん硬直した考えの持ち主でした。次のように言っていたのです。 ・描写に徹する。 ・観念的な語を使わない

名づける

 前回に引きつづき、今回も、蓮實重彥の『フーコー・ドゥルーズ・デリダ』の読書感想文です。  引用にさいしては、蓮實重彥著『フーコー・ドゥルーズ・デリダ』(河出文庫)を使用していますが、この著作は講談社文芸文庫でも読めます。 *あとで名づける、とりあえず名づける  蓮實重彥の『フーコー・ドゥルーズ・デリダ』を読んでいると、「名づける」、「命名する」、「名」という言葉が目につきます。目につく箇所を抜きだしてみましょう。なお、太文字は引用者によるものです。      *

白畑よし・志村ふくみ『心葉:平安の美を語る』(人文書院・平成9年)

みなさま、こんにちは。 本年もどうぞよろしくお願いいたします。 今日は白畑さんと志村さんの対談集を取り上げてみます。 私自身、志村さんの御著書はよく拝読するのですが、白畑さんは今回が初めてでした。お二人については下記をどうぞ…。 ●白畑よし(明治39年10月29日ー平成18年6月2日) 大和絵研究者であり、女性美術史家の草分け的存在。 詳細は東文研アーカイブズデータベースをご覧ください。 https://www.tobunken.go.jp/materials/bukko

アナログ派の愉しみ/本◎ヴォールレーベン著『樹木たちの知られざる生活』

農耕地の植物は口をきかなくなる―― それはわれわれへの予言だ いま思い出しても胸が昂ぶる。わたしは東京・小平市で小学生時代を過ごしたが、当時はまだ濃厚に武蔵野の面影が残っていて、あちらこちらに生い茂った雑木林が格好の遊び場になっていた。放課後には男の子も女の子も、板の切れっぱしやらダンボールやらを持ち寄って床と壁を組み立てたり、木の股に差し渡して2階をこしらえたりしたのを「基地」と称して、時間がたつのも忘れて遊び耽ったものだ。   だれしも記憶にあるのではないだろうか。そ

【読書】「原爆は日本人には使っていいな」

出版情報 タイトル:「原爆は日本人には使っていいな」 著者:岡井 敏 出版社 ‏ : ‎ 早稲田出版 (2010/7/1) 単行本 ‏ : ‎ 271ページ いくつもの切り口  本書はいくつもの問題提起をしてくれている。著者の意図するもの、意図せざるもの取り混ぜて。  著者の問題提起は主には原爆の常識の欺瞞、「ハイドパーク覚書」にまつわる欺瞞である。そして著者の行動の基層として平和を希求して孤軍奮闘する父の姿、それから著者が受けた軍国主義下のイジメとそれに対する父

アナログ派の愉しみ/本◎『源氏物語』

そのとき光源氏が 密通の柏木に突きつけたものは? 阪神・淡路大震災(1995年1月)から東日本大震災(2011年3月)へと続き、さらに今後30年以内に南海トラフを震源域とする巨大地震の発生確率が70~80%といわれるなかで、マスコミはしきりに日本列島にとって「千年に一度」の地球物理学的な事態だと伝えてきた。その見解にもとづくと、いまから千年前の事態とは西暦9世紀後半、平安初期の貞観年間(859~877年)前後のことで、約半世紀にわたり東北から九州までの各地が大地震や大津波に

アナログ派の愉しみ/本◎柳田国男 著『妹の力』

日本ならではの女性の 社会進出のあり方のために スイスのシンクタンク「世界経済フォーラム」が毎年発表する『ジェンダー・ギャップ(男女格差)報告書』2023年版で、日本は146か国中125位にランクされ、G7ではダントツの最下位のうえ、隣国の韓国(105位)や中国(107位)の後塵も拝した。そのおもな要因とされるのは、政治家や企業の役員・管理職、大学教授などの社会的なリーダーシップを発揮する分野において女性の比率が著しく低いことだ。いまや国際比較を待つまでもなく、新たな内閣が