同人文化をアップデートせよ

2020年に突如として陥った、同人業界の危機。しかし、イベントの消滅や印刷業者の再編が起きても、一部が危機を叫ぶ同人文化の消滅は起きない。危機なのは同人誌だけで、文化としては形を変えて存続される。既に、そのプラットフォームも展開されている。クリエイター支援サービスと呼ばれる、サブスクリプションの一種だ。

アメリカ発のPatreonが一般的には知られているが、国内ではイラストと小説向けSNSのpixivを手掛けるピクシブのFANBOX、同人誌ショップ大手とらのあなを展開するユメノソラHDのFantiaが2強だ。
ファンが支援者…パトロンとして、自分で選んだ被支援者…クリエイター…に、各々がプランとして設定した金額か、それ以上の任意の金額をサービス事業者に支払う形で支援金を送ると云うものだ。その見返りに、クリエイターはパトロン限定のイラストなどをサービスサイトに公開することが可能だ。また、プラン毎に公開範囲を設定することが可能なため、より多額の金を出すパトロンを上得意様として扱うことが可能になる。

詳しいことは此処では割愛するが、有料のパトロンがいれば毎月少なからず支援金が手に入る。その見返りにイラストなどを定期的に公開することが支援を受ける以上倫理面で必要となるが、逆に言えば同人誌のように印刷業者に入稿するデッドラインなどが存在しない。
その上、イラストも2DCGとして公開するため、印刷費が発生しない。当然、イベントでのサークル出展料や印刷代をペイするためのノルマなども無い。

コミックも同じように公開することが可能で、販売したい場合はダウンロード販売を対応サイトで展開するか、前述のピクシブのBOOTHやオンライン同人イベントサービスpictSQUAREを展開するGMWのpictSPACEと云ったネット通販支援サービスを活用することになる。その場合は印刷物としても販売可能で、印刷物にこだわる人には向いている。リアルイベントより売れ行きが鈍いが、それでも販売の場所が無いよりはマシだ。

かつては、イラストや小説を作成して発表すると云えば、それこそ同人誌として売るしか無かった。CGでもCG集としてCD-ROM形式での販売が一般的だった。それが、2DCGの普及でネットにアップロードすると云う、無料ながら公開するプラットフォームが充実を重ねてきた。昔は個人でサイトを作成したり、ブログサービスを活用したりと云う形だったが、今ではSNSが一般的となり、pixivがその代名詞として君臨する一方Twitterでの公開も多い。
そして、疎ましく思う連中も多いがダウンロード販売と云う、同人誌をJPEGやPDFと云ったデータファイルとして販売するサービスも十数年の歴史を持つ。ダウンロード販売と云うと成人向けコスプレ写真集…先述のCD-ROMやDVD-ROM形式からロムと呼ばれることが多い…のイメージが強くなる節も有るが、そもそも印刷物を必要としないため、印刷業者を通す必要が無く、印刷代や在庫と云うコストが発生しなければ、売り切れも存在しない。

同人イベント危機と、その影響を受ける形の同人印刷業者危機。こればかりはどう転ぶかは社会情勢次第ではあるが、先行きは明るくない、それだけは火を見るより明らかだ。
明るくなるとすれば、ワクチンの普及により脅威ではなくなった頃だが、それは早くて2022年以降、つまり1年以上はこのままで、その間にどれだけのイベントと印刷業者が白旗を揚げるか予想がつかないが、場合によっては寡占状態となるほどまで業界の淘汰再編が進む。

いくらマスクとフェイスシールドを併用し、パーティションだのと対策をしたところで…キャッシュレスは受け入れられ難いのが同人業界だ…、リアルイベントはライブなどよりハードルは高い。ライブなどでは、観客は一方向を向き、演者はそれに正対するが距離が有り、リスクはそれなりに低くなる。
しかしイベントでは、基本は空港の国際線カウンターのような島型配置…一部例外は有るが…となっているものの、基本的に人間の頭の向きは常に一定せず全方向ランダムで、また仕切りが 有ると言っても間隔は長机の短辺ほど。物品の売買が絡む以上、それが限度だ。つまり、総じてリスクは高止まりのままだ。

イベントでクラスタ発生となると、イベント団体の責任問題にも発展しかねないだけに、イベントに対して慎重にならざるを得ないが、一方でイベントがなくなっても大した痛手にはならないようにする必要が有る。
それに対する最大の自衛が、オンライン上のサービスを駆使したDX…デジタルトランスフォーメーションだ。サブスクのクリエイター支援プラットフォームもその一環だ。作品公開もコミュニケーションも売買も、オンラインで完結させるだけの土台は既に有る。後はそれらを上手く組み合わせるだけだ。

同人イベントなどが消えても、一部が叫ぶ表現文化と云うものは残り続ける。ただ形が変わるだけだ。時代の変化と共にスタイルが変わるのは必然で、今はその過渡期と捉えるべきだ。
業界に携わる全て…イベント団体やクリエイターやファンまで…が、認識をアップデートしアダプトしなければならない。一般社会におけるDXの流れへのキャッチアップを否定すると、業界は旧態依然のままだ。
業界に携わる諸君、ASAPでパラダイムシフトを始めよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?