登場人物の不器用さがたまらなく愛おしく感じた小説

美味しそうな料理が出てくる小説が好きだ。
そう気づいてから、今まで以上に料理が出てくる小説に心が惹かれている今日このごろ。

今日は、そんななか出会った小説を紹介しようと思います。

「めぐり逢いサンドイッチ」 谷瑞恵

大阪にある靭公園のすぐそばで、笹子と蕗子の姉妹は、小さなサンドイッチ店を営んでいる。
そこには1匹の猫と何人かの常連さん達がいる。
サンドイッチ店に関わる人との交流と、そこから生まれるサンドイッチの描写が美味しそうな小説だ。

全5章でそれぞれ読み切りの短編?で構成されている。
なかでも4章の「はんぶんこ」という章が私は好きだった。

今日は、4章のネタバレと共に感想を書いていこうと思います。
(ネタバレが嫌な方は、ぜひ本を読んでみて欲しいです。)

「はんぶんこ」に込められた愛

4章は、謎の多い常連「小野寺さん」の話だ。
小野寺さんは、サンドイッチ店「ピクニック・バスケット」の開店当初からの常連さん。いつもコロッケサンドとコーヒーを注文する、ちょっと謎のある人だ。決して悪い人ではなく、口コミでお店を広げるお手伝いをしてくれたり、困ったことがあると協力してくれる人だ。

そんな小野寺さんとお父さんの思い出の話。
小野寺さんとコロッケにまつわるほろ苦くも、実は美味しい話。

小野寺さんには離婚したお父さんがいる。
いい加減なところもあるが、子供の頃は一緒に遊んでくれる父が大好きだった。
それでも、ほろ苦い思い出とともに複雑な感情を抱くようになる。
複雑な感情を抱くきっかけになったのが「コロッケ」だったのだ。

小野寺少年の母は、コロッケが嫌いなのか食卓にコロッケが出ることがない家庭だった。商店街で見かけるコロッケに心惹かれた小野寺少年は、紙飛行機の大会で優勝するともらえる商店街の商品券でコロッケを買おうとする。父と協力して紙飛行機の大会で優勝し、商品券をゲットするも、なぜか父にその商品券は使われてしまう。どうしても、コロッケが食べたかった小野寺少年は父にコロッケを買ってもらうが、父がくれたのは「コロッケの衣」だけだった。
その後も、コロッケを買ってもらうことがあってもなぜか衣だけ。
「はんぶんこしよう」と言う父。だけど、くれるのは「コロッケの衣」。
だんだんとコロッケにいい思い出が無くなっていく小野寺少年。

だけど、物語の中で店主の笹子さんはもしかしたらの推理をする。

私は、笹子さんの考え方とその中に出てくる小野寺さんのお父さんの不器用さがすごく愛おしく感じた。

笹子さんの推理はこうだ。

幼少期の小野寺少年は、玉ねぎアレルギーもしくは玉ねぎが嫌いだったと父親が思っていたのではないか。
子供に、嫌いなもの(もしくは食べれないもの)を食べさせたくないけれど、食べたいと言っているものを食べさせないのもかわいそう。苦肉の策として、コロッケのタネと衣をはんぶんこすることを思いついたのではないか。

と言うのが笹子さんの推理。

私は、この不器用さがたまらなく愛おしく感じてしまい。この本の中で4章が一番好きなんです。

言葉足らずで、どこか自分勝手で、だけどコロッケを欲しがる息子を否定できなくて、苦肉の策ではんぶんこするお父さん。
息子からしたら、なぜ衣だけしかくれないんだと、怒りたくもなる。
(実際、コロッケの衣だけもらっても私だってイヤだ!)
だけど、年月が経って振り返ったとき、これほど強烈な思い出があるのは実は幸せなことなのかもしれない。

愛情を感じられる私でありたい

4章を読むと
行動の裏に込められた想いに気付けるかどうかで、見える景色は変わるんだなと思わせてくれる。
そして、「はんぶんこ」って愛情がこもった言葉だなと再認識する。
(コロッケの衣だけもらうはんぶんこは実際されたらイヤだけどね!笑)

伝わりやすい「愛情」が全てじゃない。
不器用でわかりにくくて、伝わりにくい「愛情」があったっていいじゃないか。

みんながみんな器用に生きれるわけじゃない。

私も、たくさん失敗したり人を傷つけてしまったことがある。
決して、器用で綺麗な生き方をしてきたわけじゃないから、不器用にしか生きられなかった小野寺さんのお父さんの姿に愛おしさを感じたのかな。

あと、私を育ててくれた父とどこか似ている気がしたのもあるのかも。
愛情いっぱいでおっせっかいな私の父。
だけど、どこか不器用で人間味のある人。

きっと父が不器用ながらに精一杯私に愛情を注いでくれたから、物語の登場人物を愛おしく感じられる感性ができたのかもしれないな。
なぁんてね。笑

自由気ままに、読んだ本の感想を綴ってみました。
私の文章だけだと、「めぐり逢いサンドイッチ」の良さが伝わっていないと思うので良ければ実際に本を手に取ってみてください♪


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,685件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?