心で解凍♡レッスンはマグロ解体ショー


したたかさや、腹黒さ、余分なことを言わず要領よく、ってのは生きていく上でとっても大事だ。仕事をしてるしある程度は大人だから理解してるつもり。つもりね、つもり。

私はそれでも、素直に、実直に物を言ってしまう方なんだと思う。
それは私のいいところであり、愛であり、優しさなんだと思っている。

ええ。自分で言うわよ私は。

***
癖のある男性の生徒さんがいた。

彼の発言とか非言語のコミュニケーションに、初対面の時から、緊張させるタイプだって思った。
緊張感を前面に出して相手を緊張させ、空気を支配する人っている。意識して緊張させることも無意識で緊張させることもある。

スピード感だったり、表情だったり、返答の仕方だったり、リアクションの鋭さだったりで、緊張って作ることができると思うのだが、彼はまさにそんな人だった。

一言で言うと、怖い。
ちょっと無造作に、サクッと心が傷つけられそうな人。


***
この先生で大丈夫かな?って生徒さんが抱える疑いが晴れ、安心、安全、信頼、信用を頂くまでの時間は結構かかる。

ポジティブに、褒めちぎってレッスンを進めることもできなくないけれど、やはり自己成長を促すのであれば痛みも必然的に感じることになる。
できないこと、苦手や課題を見つめそれをクリアして行くことでしか上達はない。
で、わかっていても自分自身の苦手を直視するのは嫌だし、それを指摘される時間って心地のいい時間ではなくて。やっぱり苦手と対面する時間って誰もが自分に苦戦なのだ。

また、その苦戦に男女は関係ないけれど。
男の人が持っているプライドって、女の人のそれとまた違う気もするので。。
異性と同性の差も、少しはあるように感じる。
否定も、女性のそれと思うと違う捉え方をされてたり。
出来るだけ否定、及びそれに近しい表現は排除しないといけないと思ってレッスンしている。


***
大変失礼を承知で書くのだが、まだ信頼関係が出来てない、しかもかなり緊張感が強いタイプのレッスンって、マグロの解体ショーみたいなものだと思ってる。
(今までいちおうデリケートに書いたのに、、マグロである。ほんと失礼ですけど読んで頂ければ。。)


どーん!
硬いのー!
できませーん!
なんとかしてー!

って
鋭く死んだ目が見開いたままの大きな冷凍マグロ状態で、生徒さんはレッスンブースにいらっしゃる。

緊張感、プラス
私じゃなんともならん感
どーにかせい感
私溶けにくいんです感

で、バキッバキッに冷やされたマグロである。(もう本当にごめんなさい)

中には自己解凍ならぬ自己開示ができる生徒さんもいらっしゃるし、そーゆー方のレッスンは本当に先生としてはやりやすい。大概自己開示が出来てる方ってコミュニケーションが上手だから、スムーズにレッスンが進むのだ。ツワモノになると逆に、毎回毎回先生を気持ちよくさせてくださったりする。私ってやっぱり優秀な先生なんだわ!って勘違い。それもまたよし。いやほんとは良くない。だってレッスンはあなたの時間だから。

私は硬いマグロを解体することを今まで何度もしてきてて(生徒の皆様本当すみません)
その解体師としての腕前を自負している。
そして何より解体ショーが好き♡

身体も心も溶かしてゆかないと、鮮度のよいお歌を聴かせていただけないのだ。


***
解体師が何でもかんでも、すぐにあの恐ろしく長い包丁を入れる!と、思ったら大間違いである。

私はその冷え切ったボーカルブースで、まずマグロと共になんでこんなに硬くて冷たいのかねぇ、と体育座りして寄り添うことから始める。

同時に、冷たい空気に慣れつつも、自分の体感温度をじんわりと感じて、自家発電させるみたいにゆっくりと自分の心を温める。


そう、どんな冷凍庫みたいな部屋でも

ここで解体師が自分の心に優しい自家発電力を備えていることはとても大切。私が解体師の誇りと自信を放り投げたら部屋は暖まることはないから。

たまに並んで一緒に空を見上げる。ブースの天井は低いから圧迫されるよなぁ。
ツンツン、とつついてみる。まだまだ、かちこちよねーそうよねー。
ゴロゴロ、と転がしてみたりする。今日は一周回せたねー。
氷だけ叩き、手のひらの温もりでちょっとだけマグロの冷たさに触れる。触ったとこだけちょっと溶けたかな?

硬くて大きなマグロはそんな簡単に解体できない。そして解体ショーは大変時間がかかる。レッスンは45〜60分。小さな問題は一回のレッスンでも溶けることもある。大きな問題は長期戦で溶かす。


***
彼の課題に適したトレーニング、解体の包丁入れをしていた最中に、ジョリって音を立てて全く包丁が入らないところに差し掛かった。おまけに氷が跳ねて顔に飛んできた。

冷たくて痛い。
彼の出す緊張感、鋭利な氷は私にささった。

彼の言葉とリアクションが私を驚かせたのだ。
不満を、私の予想だにせぬリアクションで、私にまっすぐ向けてきた。


正直に言う。

怖かった。

おんなじマグロは一つとしてなくて、その人に今私が適切だ、と思う方法を提案しても
こうやってサクッと、氷で心を切られちゃう。


私は、驚いた自分を受け入れた。

そうだ。
彼の氷、緊張感は私にとってやっぱり鋭利だ。


でも、私は解体師、じゃなかったボイストレーナー。
怯んでいてはレッスンにならない。
硬さや冷たさに泣いていては、解体ができない。

今までだって何度も、この痛みと向き合ってきたんだ。

あなたのしっかりと不満を受け入れ。

こうしたらどうかな?と(寂しそうに)私は伝えた。
彼の緊張は幾分か収まり、ゆっくりと論理的に伝えたら
理解を、納得を、してくれた。

その場は収まった。
それでレッスンとしては十分だ。


。。。

でも、
私の素直さが顔を出した。


本当に、向き合って溶かしたくなった。


あなたはそんなこと言われたことないかもしれないけど、私の感じを共有するねって前置きしてる時に
もしかしたら、この人は私のレッスンにもう入らないかもしれない、って気持ちも頭をよぎったけれど。

それでも、伝えたくなったのだ。


「さっきのあなたの言い方で、私は心が痛かったよ」



傷つけられて、悔しかったんじゃない。

彼に変わってほしいって気持ちが、全く無かったかと言われると、あったのかもしれないと思う。
でもそれ以上に

伝えたかった。


生徒さんとのこの関係性を、今だけでも真摯に、大切にしたいって思いがあったから、伝えたくなったのだ。

ジョリって音を立てた部分は
その日のうちに奥まで切ることは出来なかったけれど。


冷凍庫レッスン室の温度は、確かにちょっとだけ、上がった。



***
後日

同僚の先生にこの話をしたら

よくそんなこと言えたね!!??
土屋せんせい優しい!
そんなこと言われたら、その人だったら好きになっちゃうよー泣

と、

同じ痛みを共有することができる、優しさで受け入れてくれた。


いや、自慢したいわけではない。
ここが私のダメなとこである。
情けないところでもある。
優しいが、お節介が過ぎて、仇になる。笑
もっとドライに、言わなくてもいいところなんて放っておいて、突っ込まないで
レッスンだけ、やってりゃいいのだ。

要領は悪いんだろうなぁ。

心を使うからリスキーだけど
でも、これが私の解体ショーです。


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