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三ツ矢サイダー 〜ビルマにて散りゆく大伯父に捧ぐ〜

白きインパール
息子は散りゆく
紫色の太陽が甲板を照らす
隊列を仕切るその眼差しには
淀みなく気概が溢れ
惜別の情をひねり潰す
「できれば三ツ矢サイダーを一本、買ってきてはくれないか」 
突然の無邪気な願いは
私の一生の悔恨と化す

***

白きインパール
貴方は散りゆく
ただ一度よこした土色の手紙には
道頓堀で握った手の温もりが宿る
片道切符を握らせた何者かに
私の慟哭は届きはしないが
せめて貴方が振り向くように
最初で最後
虹色の蝋燭を恋慕と共に供える
私は生まれて初めて路傍に伏した

***

白きインパール
兄は散りゆく
「はしかい漢やった」
零戦をひたむきに創る兄貴を
学徒の私はいつも仰ぎ見る
弟を案ずる日記を見つけ
ページを繰る私の手は
シワとシミで溢れ
指先の脂はとうに失せていた
六十年越しの男孫は
私と同じ巳年で
兄貴と同じ顔つきをしている

***

白きインパール
大伯父は散りゆく
同胞は土に還り
生き証人は刻々と登仙の支度をする
We are digital native
今日もつぶやいては消し
その役割と重みに気づかない
親指一本で言葉を継ぎ
電脳世界に名もない歴史を紡ぐ
未来の生き証人はどこの誰であろうか
私はこの夏
三ツ矢サイダーの蓋をゆっくりと開く


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