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めざせないよモスクワ。最悪で最高な出会い。

どうしたものか。
路頭に迷うとはまさにこの事だった。

約4年前。転職が決まっていた私は前職の有給消化を活用して久々のバックパッカーでイスラエルを旅していた。大きなトラブルに巻き込まれる事なく、テルアビブ・エルサレムの約10日間の旅を終え、復路の飛行機に搭乗する。日本に帰国した2日後には新しい職場で、新しい仕事が始まる。大企業からスタートアップへ。どんな日々が待っているのだろうか。職場には馴染めるだろうか。成果は出せるだろうか。飛行機に揺られながら旅の思考から現実の思考へと徐々に移ろいゆく。

無事トランジット先のモスクワ空港に到着し、成田行きの飛行機に乗り換える。その時、である。

「成田行きの飛行機は受付を終了しました。」

いやいや、まだ目の前に成田行きの飛行機がある。ゲートを閉じているだけで飛行機はそこにあるではないか。ましてや同じ航空会社のトランジット。その扉を数分だけ開ければ良い。

「私たちは時間通りにゲートを閉めただけ。他は知らない。乗り遅れたあなた達のチケットもいつ取れるかわからない。」

私は片言のバックパッカー英語では交渉することもできず右往左往していた。取り残された人は2〜30人はいただろうか。成田行きの人々がアエロフロートの職員に問い詰めるが答えはない。社会主義国の洗礼だった。

そんな中、とりわけ大きな声でロシア人の職員に英語で捲し立てる男性がいた。

憤怒。ふんぬ。

そう描写するのがぴったりだった。

イギリス英語がエントランス中に響き渡る。
ただ職員には、まるで響く様子がない。

「わからない。私たちに聞かないでくれ。もう業務は終わりだ。」

かれこれ1時間以上だろうか。彼の働きかけのおかげで、場が動き始めた。

「明日の同じ時間の便を手配できることになった。ただ、空港の外には出られないので一晩空港で過ごしてくれ」

仕方なく、取り残された成田行きの乗客達は空港の地べたで一晩越すことになる。どういう流れだっただろうか。そのグループもいくつかのグループに分かれて私は憤怒していた彼と同じグループにいた。

彼の名前は小田駿一。フォトグラファー。当時27歳。

イスラエルの首都テルアビブで開催されていた官民共同のセキュリティカンファレンスCyberweekの取材帰りだった。(実は私も観光の合間にそのカンファレンスに参加するためにイスラエルへ行っていた)

歳も近いこともあり彼とは何かウマが合いそうで、ビールを飲みながらお互いの身の上話をしていた。すると、驚いたことに私が2日後に就職する企業の配属部門と現在進行形で仕事をしているという。

そして帰国後、彼とは仕事で再会し、共にチャレンジをする仲となった。

それから4年が経ち、彼はフォトグラファーとしてさらに実績を残した。
私はコピーライターを経て文筆調香家としての生業を始めた。

そして今回、彼が屋久島で収めた写真の個展「OBLIVION」における空間調香演出を携わらせてもらった。

photo by Shunichi Oda

プラスチックな生活で現代人が失ったものは何か。
効率性と利便性と共に失ったものは何か。
人間はそれらを失ったのではない。忘れているだけなのだ。
屋久島の大自然が織りなす複雑性と抽象性に満ちた香気は
人間に起源を思い出させ、人間を原点に立ち返らせる。
苔むす岩岩。ひとひらの花弁。幾千の年輪。雨後の湿気。
我々人間は万物の一片であり、万物は我々の血縁だ。
生物としての人間がコンクリートに囲まれながら忘れたものが屋久島にはある。
生物としての人間に戻る瞬間がそこにはある。

OBLIVION BLEND
屋久島に足を踏み入れた者だけに訪れる悠久の記憶を香りに。

彼のインスピレーション、思想、そして現地の空気を言葉として紡ぐ。そしてそれを14種類の精油をブレンドすることで「屋久島の香り」を調香した。

photo by Shunichi Oda

彼が切り取る「曖昧化・印象化」した屋久島の写真は、観る者に対して想像の余白をもたらす。

その余白に「香り」という抽象的かつ幻視的な存在を重ね合わせることで、写真が持つ可能性を最大限に引き出す新たな試みになっている。

彼の写真が放つメッセージを視覚と嗅覚から体感してもらえる場になっているのでぜひ多くの人に体感してもらえると嬉しい。

「小田駿一: OBLIVION」
会期:2021年12月4日(土)〜12月27日(月)
会場:C7C gallery and shop(名古屋市千種区千種2−13−21 2F)
営業時間: 13:00 – 18:00
入場料:無料
※4日(土)、5日(日)、11日(土)、12日(日)、25日(土)、26日(日)は作家在廊

モスクワでの最悪で、最高な出会い。
人生のターニングポイントでは必ず彼と出会う。
私はたぶん、死ぬ時もこの出会いを思い出しては噛み締め、死んでいくと思う。

※現在、名古屋の千種で開催しているのでお近くの方は是非お越しください。12/26・27は小田くんと私も在廊予定です。


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