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もう、ここにいられない!と思ったところに、とどまる練習(マガジン2)

彼氏にプロポーズを断られた翌日から、私はずっと泣き続けていた。
この先何年、私は彼氏を待たなきゃいけないの?
もう、ここにいたくない。時間が早く、過ぎ去ってほしい。
誰か現れて、私の気持ちを奪ってくれたらいいのに、と思った。

本気で死にたいわけじゃなかったけど。
携帯で「自殺 痛くない 楽」と調べるか、友人に電話するか、
悩んでいたとき、友人からLINEが入った。

話を聞いてもらって、少し気持ちが落ち着いたけど、
それでもやっぱり、仕事の打ち合わせで外に出るとき以外は、
ずっと、ずっと、涙が止まらなかった。

で。
もはや、何をどうしたらいいか分からなくなった私は、
1年ほど通っていたクリパルヨガの集中コースに申し込んだ。
”悟ったら、もう苦しくなくなるのかな”とぼんやり思ったし、
もう、とにかく何か、人生に変化を起こすものが欲しかったのだ。

クリパルヨガは「動く瞑想」と言われるようなヨガで、
難しいポーズをとることより、からだを動かすことによって、
自分の内側に起きる変化に目を向けようというコンセプト。
私が「自分と繋がらなければ」と、ふと思ったのも、
ここで聞いていた話が、残っていたのだと思う。

私はその集中コースで、
”自分でコントロールできないものに、どう立ち向かうか?”を学んだ。
そして「エッジ」という概念を教わったのだ。

「エッジ」とは、リラックスと緊張の間。

たとえば両腕を伸ばすとき、
ただ、だらーんと伸ばすのは、リラックスした状態。
この状態だと楽だけど、気持ちは集中しない。

逆に緊張は、両手の先端を先へと伸ばして、
腕がぷるぷる震えるような状態。
自分の限界を超えて緊張させすぎると、
苦痛の思考でいっぱいになるけど、
その手前でとどめると、自分に変化が起きる。

力を抜き過ぎない。力を入れ過ぎない。

「エッジ」と呼ばれる、力の境界線では、
からだのバランスをとろうと集中することで、
心に深い、リラクゼーションがもたらされるという。


私たちは「橋のポーズ」という、
手を使わないブリッジのようなポーズを、10分間続けることになった。
私にとって、1分続けるのもきつく感じるポーズだ。

からだが固い私は、ポーズに入るとすぐ、足やお腹が震えだした。
そのうち、苦痛に対する強い怒りと恐怖の感情が湧いてきた。

”私はもう無理、これ以上できない!
なのに、やらされるなんてひどい!”


自分が望んだわけじゃないのに、
嫌なこと、苦しいことをやらざるを得なかった体験が、
わーっと、私の中によみがえった。

どんどん、足がからだを支えられなくなっていく。
”もう、お腹が上に上がらない。お尻が床につきそう…”

このポーズをやり抜くためには、
呼吸することと、自分を励ますため言葉を唱えることが助けになる。
講師が教えてくれたことを試してみる。

思い切り息を吸って、吐いて、自分の呼吸音を響かせて、
苦しくなったら言おうと決めた言葉を、心の中で唱える。
「私はやれる、やれると信じる」

怒りと恐怖が鎮まってきた。
落ち着いて、からだの中で力を入れるポイントは?と探る。

緊張が強くなるのは、不要なところにまで力を入れているからだ。

大きく息をしながら、このポーズで力が必要な部分に意識を向ける。
土台になる足を踏ん張って、ぐっと骨盤を押し出す。
そこに力を入れたら、他の余分な部分の力を抜く。

崩れていた体制が整った。

からだを支えている太ももと背中は、痛みを訴え続けているけど、
まだ、続けていられる気がする。
不要な力を手放して、必要なところに力を入れる。
一瞬、一瞬で、変わっていくからだのバランスをとりながら、
意識を向け続けていく。
苦しい、きつい、という想いは感じるけど、私はとても冷静だった。


周りからは、同じようにポーズにチャレンジしている、
集中コース受講生みんなの呼吸音が聞こえてくる。
苦しいのは、私だけじゃない。
そう思うことで、なんとかポーズをやり遂げた。

10分間のポーズは、思いもよらない体験になった。
強烈な怒りと恐怖。
そこから、静かな自分にたどり着いたこと。

なんというか…
もう、ここにいられない!と思うキツイ場所であっても、
そこに居続けることで、変わるものがある。
見えてくる世界がある。

不思議な感覚だった。

エッジにとどまるレッスンを終えて、
私は恋人との関係で、
エッジの中にとどまろうとしているんだな、と感じた。

つづく



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