僕と書店と二次元ドリームノベルズ
綾鷹がライトノベルにどっぷりとハマったのは、多感な中学生の時だった。最初に触れたのは、当時のオタクなら誰もが履修したであろう角川スニーカー文庫の「涼宮ハルヒの憂鬱」。
周りのクラスメイトがまだ誰も触れてなかったライトノベルというコンテンツ。思えばこの時から綾鷹の人生の方向性が定まったような気さえしてくる。
ステレオタイプなキャラ同士の掛け合いが中心で地の文が比較的少なく、挿絵も多く読みやすいライトノベルは気軽に読めて嬉しかった。人気の作品はアニメ化もよくされていたのでより間口が広く感じたのかもしれない。
ライトノベルのヒロインとは、得てして外見が美しく描かれる事が多い。瞳が大きくスタイルもよく描かれ主人公に対して積極的なアプローチをする魅力的なキャラクターだ。
涼宮ハルヒの例でいくと、朝比奈みくるというキャラクターが挙がってくる。巨乳で引っ込み思案な性格やハルヒにされるがままになっているシーンが多く、サービスシーンの多いキャラクターだ。主人公であるキョンを男としては意識していないのか目の前で平気で着替えだすハルヒも、当時中学生の綾鷹には刺激的なキャラクターだった。
綾鷹も当時は思春期の男子。女体に対する興味がどうにも性欲という名の探求心を惹き付けてやまない。もはや着替えをうっかり覗いて下着を見てしまう程度のラッキースケベでは物足りなくなっているのだ。
そんな時に、ふと頭をよぎる考えがあった。
「もっとエッチなライトノベルも探せばあるのではないか…?」
古本屋やレンタルビデオショップの18禁コーナーに入る勇気はまだなく、官能小説にも抵抗があった。今思えば情感溢れる文章ではなくただただエッチな挿絵が見たかったとも言える。
そんな中、候補として現れたのはエロゲのノベライズだ。
そう考えてからは早かった。普段通るコンビニを越えてさらに走った先、およそ三駅ほど離れた所にその書店はあった。
国道沿いにある、少し寂れた書店。いつ入っても閑古鳥の鳴いた店内。そして店主はぼんやりしたお爺ちゃん。客の入店を把握しているのかも怪しい。
寂れた外観とは裏腹に店内は明るく、平積みされたコミックの新刊が見やすくて良い配置だ。ゆっくりと欲しい漫画やライトノベルを探すのに向いており、お気に入りの書店だった。
ここを選んだ理由としては、
・立地が活動圏内から遠く、知り合いにバレるリスクが低い。
・店主は高齢だし客の買う本などいちいち気に留めないだろうという推測。
・単純にお気に入りの店の売り上げに貢献したかった。
そして何より、エロゲのノベライズ本が18禁コーナーにゾーニングされず普通に置かれていたことに尽きる。表紙は美少女イラストなので、お爺ちゃん的には普通にラノベだと思われていたんじゃないだろうか。
当時の最新刊だったHUNTER×HUNTERの24巻を眺めながら、店内に居合わせた客が帰るのを待つ。ゴン達は王をいったいどうやって倒すのだろう…?敵が強すぎて心の折れてしまったノヴはちゃんと戦闘に復帰できただろうか?
10分、20分と時間が経つにつれて客足が途絶え、いつしか店内に残ったのは綾鷹と爺の二人きり。
チャンスは今だと光の速さで1冊の本を手に取り、バーコードを上に向けて表紙を隠しつつ、HUNTER×HUNTERの24巻をその上に重ねてさも「全部好きな漫画ですが???」的な雰囲気を出す。
思春期だった綾鷹の微笑ましい小細工である。
心なしか表紙に描かれた王も綾鷹を見守ってくれている、そんな気さえしていた。ああ、王よ…!!
走馬灯のように目まぐるしく切り替わる思考とは裏腹に意外とあっさりと会計は済んだ。「これは18歳以下は買えないから」とにべもなく取り上げられるシチュエーションも覚悟していただけに拍子抜けであったが、とにもかくにも目的は達成。
充足感とエッチな本を買ってしまった背徳巻で、その日の帰り道が一番興奮していたんじゃないかと今となっては思う。古びた街灯の点滅する灯りが、綾鷹を祝福しているように感じた。
帰宅し、ドキドキした心境を押さえ付けるようにシュリンクを剥がし戦利品である新書サイズの書物のあらすじを読む。
そこに書かれた
いやゴリゴリの凌辱ものやんけーーーーーー!!!!!!!
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