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沖縄の里親さんのニュースについて思うこと〜養育里親について、公衆衛生の立場で大学院で調査している身として〜

●養育里親について、公衆衛生の立場で大学院で研究をしている者です。
●沖縄の里親さんのニュースは想像以上に多種多様なところからコメントが上がりました。
●里親界隈でない方がシェアしてくださるニュースは少なく、この機会に一人でも多くの方に里親のことを知ってもらいたいと思います。


この記事はもとはTwitterように書いたものですが、後ほど見直せるように同じ内容をnoteに編集したものです。


0.最初に、私の立場として


私は養育里親について、公衆衛生の立場で大学院で研究をしている者です。福祉分野の専門職ではありません。

今回のニュースもあくまで報道されている内容のみで論じています。
報道内容が全てを網羅していることはありえないので、部分的には「この界隈ではこういうことがよくあって・・」という情報を付け足しながら,あくまで個人の意見として書いていきます。


1.メディアの取り上げ方の違和感と、わざと引き起こしているであろうミスリーディングについて。

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まずは全体としてメディアが「育ての親である里親さんと引き離されてしまって可愛そう」という感情に訴える取り上げ方を、動画シーンなどで見せていることに違和感があります。里親制度を詳細に知っている方であれば、ここだけを”感動的な悲しみのシーン”として切り出されるのは里親の本質ではないことがわかるからです。


ここを利用し、一般向けには「こんなにまで懐いて育てたのに、訴える権利すら無い」ということでメディアの閲覧数を伸ばそうとする意図が感じられます。
もしくは全く里親制度に理解のない方が書いたかどちらかの可能性があります。


2.事実のすれ違いとそれでも真実告知を勧めるべきと思う点について。

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”Hさんは複数の病院からは発達障害があるとの診断を受けた。そのため、夫妻は医師の「実の親ではない」と告知する真実告知を今行えば「心身などに悪影響を及ぼす」などという助言から行っていませんでした。"

とありますが、

その「今」を見極めるためには子どもを日常的に見ている里親さんの感覚や子どもへの理解が必要不可欠です。

特に発達障害があるのであれば、本人にわかる言葉、理解しやすいタイミングで、少しずつ伝えることが必須であり、例えば「実の親ではない」とストレートに伝えるのではなく「今は私達が一緒に住んでいる家族なのだけれど、あなたにはもうひとり家族がいてね」と切り出す、絵本で伝える、話の切り出し方を児相や専門職と話し合うなど色んな工夫が出来たと考えられます。

里親さんは研修でその基本は学んでいます。

”実際に実母はコロナ禍前の2018年ごろから面談を求めていて、コザ児童相談所も真実告知を行うよう求めていました。”

とあり、ここに関しては里親さんも(おそらく)この情報は知っていたかと思いますし、児相も求めていたということなので、「家族のもとに帰る前にできること」として少しずつ 
していく必要があったと考えられます。

実際の現場では、医者、児相、里親担当等の全ての人の意見が合うことはまれだと私は思っており、それぞれの立場があります。

多様な専門の意見を統合し、里親さんは日常生活を子どもといちばん近くで過ごす者として子どもに接するので、今回はこれらを総合的に考えて「少しずつ真実告知をする」というのが養育里親の立場であると思っています。

3.子どもの権利はある?アダルティシズム(子ども差別)では?

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アダルティシズムという言葉をご存知でしょうか?
日本語訳では「子ども差別」と訳されており、
身体的虐待や情報を与えないこと(=あなたにはわからないことだから。心配しないで。のようなものも含め)

誤った情報を与えること、力の否定、などのもののあらゆる組み合わせである、と言われています。(Sazama,J.2001)

このアダルティシズムに加えて、”成長途中”だから話を聴く機会を設けないことや、本人のために周りが良い選択肢を与えてあげよう、というスタンスになっていないか?ということが気になります。虐待は「被害者性」、障害のある子は「ぜい弱性」に目が行き、日本では意思決定の機会は与えられにくくなりがちです。

以下ユニセフより画像をお借りしますが、子どもにはいくつもの権利があります。


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第6条 生きる権利・育つ権利

第6条は生きる権利・育つ権利として、すべての子どもは、生きる権利・育つ権利をもっています。

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この点が脅かされたために生後2ヶ月で里親宅に来たのでしょう。よって命の安全が保証された後にの話にはなりますが子どもは親と引き離されない権利、親と子どもがあったり連絡できる権利があります。

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安全面が保証され、その他条件が整えばもちろん会うことができます。(その細かな判断を児相がするのが良いかどうかの議論はここではしませんが、そのような仕組みになっているのが現状です。)なので今回も親が会う意志があり、児相が可能と判断した場合は、親子が会う方向に里親さんは応援し子どもを送り出すことが最初の図に書いてある、子どもにとって一番良いことになるかなと思います。

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一方で被害にあった子どもを守るという観点では、2ヶ月で離れ離れになっているのはマルトリートメントの結果ではあるので、その心の傷を考慮する必要はあると思います。ただ今回は、里親さんとの関係性はできていると考えられるので(2ヶ月から同一の家庭環境で育っていることもその根拠です)、5歳というある程度家族について理解ができ、言葉での意思疎通が出来る場合は、#養育里親 から状況を伝えることが #子どもの権利 に沿っていると考えられます。
#ユニセフ
#こどものけんり


実際には措置解除(里親家庭から家に戻ること)の後に、スムーズに行く事例は稀です。

それであってもそこは家族再統合に向けて支援を受け、少しずつでも歩んでいくことは、子どもやその親にとって、重要なことだと考えられます。


*論点は変わりますが、里親さん側にとっては、突然別れを告げられる場合(子どもが帰る場合、次の施設に移る場合など)がほとんどです。

施設職員と違って実親の情報もほぼもらっていません。

子育て支援は今でこそ少しずつ増えてきていますが、里親支援はかなり手薄で、一度委託されたら後は自力で頑張ってね、というような制度設計になっている部分が多くあります。

もちろん研修を経てはいますが、中途養育ならなおさら子育てで困難を抱えるのは想定内なはず。

●里親の孤育てではなく、”チーム養育”を掲げているのであれば、もっと里親支援を充実させてほしいですし、措置解除のタイミングやその議論をするための場に里親は意見も言えない立場であるのはおかしいのではと思っています。

*チーム養育とは
里親や支援機関、関係機関が一体となって、子どもの養育を行うことを指します。(以下は例として里親普及促進センターみやざきさんのURLを紹介いたします。)
https://satooya-miyazaki.org/team-upbringing

4.根本にある里親制度の認知度の低さ

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ここまで色々書きましたが、根本は里親制度を知らない人がメディアに文章を書き、子どもとのセンセーショナルな別れのシーンを切り貼りしているようにしか見えない状況を作り出すことで何が問題かというと

・5歳の子どもさん、周りの人は積極的にメディアに出ているこの人達を特定できるであろうこと(特にご本人やご家族は後ほど検索したらいろんな状況がわかるでしょう)

・子どもが保護される/保護されている家族は、「里親は子どもを取る制度なのか?」と勘違いする人が出てくるでしょう(本来は家族のもとに帰るまでや自立をサポートする制度であり、実親さんから子どもを奪う制度ではありません。


ここの説明は若干長くなるのでまた別のnoteで書かせてください。最後まで読んでいただきありがとうございました。



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