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「ナイト・オン・ザ・プラネット」 と ジム・ジャームッシュについて

早速ひとつめのおすすめ映画を紹介します。

第1作目は、ジム・ジャームッシュ『ナイト・オン・ザ・プラネット (1991)』にしようかな。

原題の “Night on Earth” の語呂が良くて、プラネットではなく「ナイトオンアース」といつも呼んでいるのだけれど、私がジム・ジャームッシュ作品の中で1番好きな映画です。ジム・ジャームッシュ初心者でも比較的観やすいのではないかしら。

あらすじと概要

この作品は5話のオムニバス形式で、それぞれの舞台は ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、そしてヘルシンキ。地球上のそれぞれ違った場所で、タクシードライバーと乗客の会話を描く。

あらすじ、と見出しをつけたものの、正直あらすじらしいあらすじというのはあまり存在しない。だってジム・ジャームッシュ作品て、人が殺されたり、何かが盗まれたり、周りを巻き込む大恋愛をしたり、そんなドラマチックなことは起きないもん。(タクシードライバーと乗客が、みんなクセの強い人たちなんだけれども。)

この作品の内容をシンプルに説明するならば、それぞれの街で、電車もバスもなくなった時間にたまたま拾ったタクシーに乗り、そのドライバーと他愛ない話をする。ただそれだけ。

でもね、それが最高なんです。

終電がなくなったあとの街って、いつもより少し静かで、昼間とはまた違う雰囲気で。その時間に拾ったタクシーが、思いがけずいい出会いになったりすることってあるじゃないですか。あの時間だから成立する良さってあると思うんですよね。その「なんか良いよね」を、存分に感じられる映画です。

そしてこの映画はオムニバス形式だけれど、実はあることが繋がっていて、ヘルシンキ編まで観るとそれに気がつくはず。ネタバレは控えるので、ぜひ鑑賞して気がついてみてください。

あと、若いウィノナ・ライダーがめちゃくちゃ可愛い!

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「私にとっての」特別な一瞬

私たちの日常なんて、ハリウッド映画になっちゃうほど派手でもなければドラマチックでもない。でも、その中でも確かに「自分にとって大きな出来事」とか、「自分にとっては忘れられない出会い」とか、きっと何かしら持っているのだと思う。他の人からしたら大したことじゃないかもしれないけど、自分にとっては特別なこと。ジム・ジャームッシュはそれを描き出すのが上手い。天才的に上手い。

彼が描くのは、どこにでもありそうな日常。でもそれを、詩的な、そしてときにはコミカルな言葉や風景で描き出すことで、「当たり前の日常」が、「その人にとっての特別な一瞬」になる瞬間を切り取るのです。

だから観客はジムジャームッシュ作品を通して、ああ自分もこういうことあったな、と自身の思い出に浸ることもできれば、登場人物たちが感じた「特別」を、同じように感じることができる。

ジム・ジャームッシュ作品を観るときは、肩肘張る必要はないんです。もうあとは寝るだけ、というくらいの時間帯に、コーヒーかホットミルクでも入れてソファでくつろぎながら、ゆったり観るのが最高。(※個人の感想です)

ハラハラドキドキもしないし、号泣もしないけどたまにクスッと笑える。そして、ああこんな日々って案外悪くないよな、と思いながらベッドに入れる。そんな作品です。

おまけ:私とジム・ジャームッシュ

私が初めて観たジム・ジャームッシュ作品は、 “Stranger than Paradise” でした。そのときはまだジム・ジャームッシュの良さが分からず、なんだこの映画は…?何が言いたいんだ…?という印象で、なぜこの映画が世界的に評価されているのか頭をひねったのをよく覚えている。

その次に観たのが “Coffee and Cigarettes”。これがとても良かった!私はこの作品でジム・ジャームッシュが好きになりました。これもオムニバス形式で、1話は5-10分程度で飽きずにさくさく観られる。俳優陣も豪華なのはもちろんだけど、あ〜こうやってコーヒー飲みたいな、と思ったのが好きになった瞬間であり、ジム・ジャームッシュという監督の観方が分かった瞬間でもありました。(個人的には紅茶派です)

何かが起こることを期待するのではなく、それこそコーヒーを飲んで煙草を吸いながら、シットバックして写真集やおしゃれ雑誌をめくるような感覚で観る。でもそれは決して内容がないという意味ではなくて、それがこの監督の良さであり、すごさでもある。

その他のおすすめ

『ダウンバイロー』とか、初期の作品も良いのですが、私は “Only Lovers Left Alive” が大好き。でも長くなりそうなのでこの作品についてはまた今度。

それから他作品に比べると有名ですが『パターソン』も良い。『ミステリートレイン』に出ていた永瀬正敏が再び出演してるのもエモい!

もし夜中にタクシーに乗ることがあったら、『ナイト・オン・ザ・プラネット』を思い出してみてくださいね。





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