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Terrasse@Paul Bert フランス食関連ニュース 2021.06.16

今週のひとこと

レストラン・カフェ営業が解禁(衛生プロトコル順守の上)になって1週間。パリの私の食堂といっていいビストロ「ポール・ベール」へ、オーナーのオーボワノの様子を伺いがてらに、訪れました。オーボワノが一代で築き上げた、人間味あふれる壮大な創業ストーリーと歴史のあるこの店への愛着は、私にとって大きく、良いことがあった時も、精神的にめげることがあった時も、あるいは心を許す友人たちとの食事も、心から寛げるパワースポットで、店もオーボワノも、パリではなくてはならない存在です。

もともとは株式仲買人として世界中を渡り歩いたが、お金だけを動かす仕事に嫌気がさしたオーボワノ。食べることが大好きで、ビストロの出資者にもなったが、自分でやらないと気が済まない質(たち)。ビストロのドンと言われたピシャール氏の薫陶を受けて、この店をオープンするという経緯。18番地から隣の店を買い足しながら、店の規模を少しずつ広げ、最近は他番地にも姉妹店を作って、ポール・ベール通りといえば、あのビストロ、といわれるまでに。アラン・デュカスとの親交も深く、パリのビストロを盛り上げるためのさまざまなプロジェクトにも関わってきた。オーボワノの風貌がデュカスに似ており、2人とも大の蚤の市好き。オーボワノが、クリニャンクールのある店に訪れると、一目で気に入った絵があった。そこでその絵の交渉にかかろうとすると、その店のオーナーが、それは先週あなたが買い求めたものではないですか、お届けするところでした、という。驚いて、自分は買った覚えがないというと、オーナーはデュカスだと勘違いしたというストーリー。この話はここで終わらず、ある日、オーボワノの家にデュカスから、その絵が届いたそうです。

ポール・ベール通りにもう24年も店を構えているのに、このロックダウン中テイクアウトに挑戦することで、いままでまったく店に来たことのなかったご近所の常連がついたということです。確かに普段は、多くの客が常連客であることもあって、ちょっとしたクラブというかコミュニティが育っていたために、近所の人々は遠巻きに眺めていた節もあったのかもしれません。新しいご近所づきあいが生まれたことをオーボワノは喜んでいました。

この1年間半、レストランやカフェの席に座るということが、昨年夏の営業時期を除いて失われていましたが、レストランの素晴らしさを改めて知ったひと時でした。サービスの人たちとのやりとり、おすすめのワインについてのソムリエとの語らい。肉はセニャンで、と頼めること。注文通りにせにゃんで焼きあがってくること。熱々のポテトフライ。季節の野菜のこなれた調味。コンピューターやスマホを目の前に、情報をさらうばかり、発信するばかりに一生懸命になっていることの虚しさに、改めて気づかされました。

百聞は一見に如かず。百考は一行に如かず。百行は一果に如かず。 百果は一幸に如かず。自らを反省して、次に進みたいです。

今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載しています。ご笑覧ください。【A】ピエール・エルメの新コレクション「ジャポニズム2021」【B】アレクサンドル・ブルダ、SNSによる発信停止宣言【C】ポンピドゥ・センター所蔵巨匠ピカソの絵を、パリ郊外のスーパーマーケットに展示【D】ハードロックカフェ、創業50周年記念【E】オペラ座に面した「Café de la Paix」とホテルがリニューアルオープン

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