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「旅するコンフィチュール」@横浜 フランスの食関連ニュース 2021.08.18

今週のひとこと

久々の1ヶ月の日本滞在は3分の1も過ぎて、一刻一刻と過ぎる時の早さに、驚く毎日です。再会までに1年半強のブランクのあった両親との時間もやっと取り戻すことができた感があって、心からほっとすることのできている今日この頃です。毎日、ライン電話で表情を見ながら話をしているものの、まったく気がつくことのなかった健康状況などにはじめは愕然としましたが、やっと、この滞在中に元気を取り戻してくれた両親に感謝。オンラインでのやりとりがこのコロナ禍であっという間に広がりましたが、実際の人と人との関係というものは、オンラインでの関わりは補足的なものであり、五感を通した会話なくしては、真実は隠れているものだということを体感しました。また、オンラインでのコミュニケーションがあるから安心、という考えには落とし穴もあり、常に注意深くリアルな関係性の大切さを心に留めておくべき、見落とさない姿勢でいたいという考えに改めて至りました。コロナ禍において、そうしたリアルな出会いがままならない時代、この時代は我々に何を課しているのだろうとも、反芻しています。

横浜の「旅するコンフィチュール」。朝は必ずヨーグルトを食べる母のために、オンラインでお取り寄せをしました。中高時代の同級生、違克美さんが2013年に立ち上げたジャムのブランド。

「生産者との出会いを大切に、真心込めて育てられた果物の味わい、香りをそのままに届けたい」

そんな思いはサイトからも伝わって、違さん手作りのコンフィチュールを早く味わってみたいとパリからずっと思いを馳せていました。

「杏とヴェルジュ」、「すももとカシスジャム」。迷った挙句にまずは注文した2種類に加えて、違さんがお試し用の小さな瓶に詰めたジャムをいくつも送ってくれました。「桃とローズ」、「桃とラズベリー」、「金柑マーマレード」、「杏とアーモンド」。すべてテイスティングをして、そのみずみずしさに、心から感激をしました。ジュレでない限り、「みずみずしい」という表現は使ったことはあまりなかったのですが、違さんのジャムは、ジャムというよりも、ジュレと呼ぶにふさわしい、まさにみずみずしさが特徴的な味わい、そして香りでした。砂糖の存在も忘れてしまうほどの、フルーツそのままの味わいを永遠にしたような。貴腐ワインを作るためのぶどうの雫とでも例えることができるような。砂糖には、北海道産のビードグラニュー糖を使っているということ。「量も控え目なわけではないけれど、火入れを少なくしたり、香りを出すこと、テクスチュアの工夫で砂糖の甘みが前面に出ないように考えている」のだそうです。一つ一つのレシピに至るまでの、そしてフルーツの味わいによって試行錯誤し続ける、彼女の思いの結晶なのだなと、日夜努力をする彼女を思って心が熱くなりました。彼女は「香り」という言葉をよく使うので気付いたのですが、香りへの並々ならぬ思いも、みずみずしいジャムのあり方にも表れている。瓶を開けたときに放たれる香り。目に飛び込んでくれる印象に続いて、嗅覚を刺激してくれる。裏ラベルを見れば、金柑は鹿児島県肝付町、すもも、桃は山梨県、カシス、杏は青森県、ぶどうは横浜市と記されていて、日本の地図が脳裏に立ち現れ、生産者との関係も伝わってきます。

ところで、みずみずしいという言葉は、日本的な表現ではないかと思いました。瑞々しいの「瑞」という言葉は、「3つの美しいたまを縦にひもで通した」象形「玉」と、「植物が水分を得て根をはり、発芽をした」「耑」を合わせた言葉。もともと、「ものごとの誕生に先立って、神の意志を見るための玉」を表す言葉だったそうです。稲穂のことを、瑞穂と呼び、日本のことを「瑞穂の国」と呼ぶ。美しい水の雫にうつる豊かな情景は、日本特有の美しさなのではないかと思います。彼女のジャムは、まさに日本の美しさそのものでした。

同時に、この連日の大雨による水害も考えざるを得ません。水温の高い東シナ海から大量の水蒸気が発生して、上空の寒気に冷やされて線状降水帯を作り、それが日本を襲う。気候の変動も我々人類が生み出したこと。問題への気づきと小さな行動は、世界中で始まっています。違さんのように、一つ一つの素材を大切に仕上げ、消費者にお届けする心もその一つではないかなと思います。

今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載されています。ご笑覧ください。【A】フレグランスブランド「メゾン・グタール」x「アンジェリーナ」【B】「ヨーロッパのベストピッツェリアTOP50」パリの店が優勝。【C】ワクチン接種パスポート提示客に対し、ビール一本を無料で提供。【D】スイス・ジュネーブにL’Atelier de Joël Robuchonを内包する豪華ホテルが9月に登場。

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