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フランスから、食関連ニュース 2021.01.27

今週のひとこと

弊社atelier DOMAの3軒先にパン屋があります。名店として知られているわけではなく、見た目はどこにでもありそうな店なのですが、2年前にパリ市が開催するバゲットコンクールで10位以内に入賞を果たすなど、信頼できる味わいは、弊社が3年前にアトリエを構えて以来変わらず、毎日のように通っています。朝はとりわけショーケースにいっぱいに並ぶ黄金色のクロワッサンとパン・オ・ショコラが抗し難く食欲をそそるので、買って食べずしては1日が始まりません。表面の香ばしさ、空気を綺麗に均一に含んだ生地の出来上がりのそれは、近年は自家製パンが少なくなったことも手伝って、なかなか出会えない味わいでもあると思います。クロワッサンの、ときには重くなりがちなバターの存在感ですが、それが残ることのない、歯切れのよい食感と香り。他の店に浮気しては、この隣の店に戻るということを繰り返しています。数年前の調査では、冷凍されたものを焼くだけのクロワッサンが、フランスの総生産量の80%を占めるという数字が明らかにされていましたが(フランス全国の60%のパン屋)、近年のクロワッサンの一律な質を考えますと、残念ながらその数字に頷けてしまいます。隣の店では、毎日山のように焼き上げられるクロワッサンとパン・オ・ショコラ。昼過ぎや夕方にはほとんど売り切れてしままう。ご近所に愛されている店だということもわかります。売り子さんも入れ替わり立ち代わりで4人が店に立つ。その4人とも、3年以来、顔見知りとはなっていたのですが、挨拶程度で深い話をすることはありませんでした。後ろのお客さんを待たせるわけにはいかないというのもしばしばで、またこのコロナ禍において、売り子さんと長話をする時間を取るのも憚られていた。ところが、昨日の朝、できるだけ焼き色のよいクロワッサンが欲しいという所望をしたことから、また後ろで待つお客さんもいないというタイミングで、言葉を交わしました。「隣で包丁のアトリエを構えているのでしょ、包丁も売ってるのよね? 気になっていたの、今度休み時間に必ず尋ねてみるわ」との、何気ない当たり前の、しかし手を差し出すような言葉が温かく心に沁みました。

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コロナ禍で学んだことはたくさんありましたが、人々との距離感に関して感じているのは2つ。1つは、多くの人々が体験したことだと思いますが、自分の住む界隈、あるいは活動圏内のご近所の助け合いが、いかに生活や心、もちろんビジネスを支えてくれたかということ。そしてもう一つは、コロナ禍でフランス政府も小売店に推奨しているEコマースで、インターネットでの繋がりが不可欠となったということ。我らのウェブサイトaffutagecouteaux.comにても、どこでどのように知ってくれたのか、注文がフランス全土から来ることもあり、驚いています。しかし、インターネット上でのやり取りをいかに濃い、リアルな人と人との関係に落とし込めていけるかということにも未来を感じています。トレーサビリティではないですが、人の顔が見える信頼関係を一歩一歩築くこと。

7区の自宅そば、500メートルも離れていない場所に、日本人の女性が営むヘアサロンがあって、初めてお世話になりました。近所に住む友人から紹介されたばかりで、灯台下暗しでした。私はその日の最後の客。夜間外出禁止は18時から適用されているので、十分に間に合う時間に到着したのですが、18時が差し迫ると、近所の隣人たちが次々に手を振って、あるいは店をのぞきにきて、なにやらサインを送っている。何かと思って聞くと、先週にある出来事があったそうです。つまり、18時が適用されたばかりの週頭、18時を少し回ったばかりの時間、最後の仕事を終えようとしていたら、突然警察が押し入ってきた。今の時間の仕事は違反だ、もう一度繰り返したら、処分を受けることになると、かなり強硬な態度で警告されたそうです。こうした成り行きを多くのご近所の人々が知っていた。小さな商店の、しかも18時をほんの少し回ったばかりの店に押し入るのは心無いことだと皆が同情してくれた。手を振ってくれていたのは、もうそろそろ18時であることを教えてくれていた、あるいは、閉店間際の彼女を励ますためのサインだったのでした。彼女がこの店をオープンしてから10年。バーチャルな世界も夢を運んでくれますが、こうした小さな商店が築き上げた信頼ある人間愛の一つ一つが、実際の社会を作っていることを忘れてはならないと思います。

今週のトピックスは、今週のひとことの後に掲載されます。【A】リヨン市のシェフがこぞって参加する、限定のフードトラック登場。【B】南仏オクシタニー産ノン・アルコールワインの目指すところ。【C】インスタントのビール粕ラーメン人気。【D】ミシュラン初の1つ星ビーガン店など、ビーガンに人気高まる。

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