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季節のフルーツのクランブル@Boulangerie L'Abeille 2022年パリ最高バゲット賞6位 フランスの週刊フードニュース 2022.06.14

今週のひとこと

以前も紹介したことのある弊社atelier DOMA隣にあるブランジュリーは、春にリニューアルオープンを果たし、さらに腕を上げています。
リニューアルから小麦などの材料もすべてオーガニックとこだわり、今年、5月中旬に開催されたパリバゲット賞に挑戦していました。今年も上位で6位(2019年は7位)。
オーナーは、パン職人中国系のSangさん。長年真摯に取り組んで、今年リニューアルオープンにたどり着いた。一足飛びにしない姿勢も、信頼できます。
リニューアルでは、店内外が明るくクリーンになりました。店名も以前はあってないも同然だったのを「ラベイユ(蜂)」に。
大きなショーケースにヴィエノワズリー、サンドイッチ、パティスリーがずらりと並ぶのはなかなか圧巻です。が、14時過ぎになると、サンドイッチ類、ヴィエノワズリーは毎日ほぼ売れ切れてしまっているのも、その味わいが愛されているという証拠だと思います。

パンはもちろん、季節もののタルトやパティスリーも、シンプルでありながら、間違いない生地、焼き具合、クリームの配合、良質な素材など、正当なこだわりが伝わってきます。
今はベリーの季節なので、ピスタチオとさくらんぼのタルト、フランボワーズといちごのタルト、フレジエなど、以前は挑戦していなかったパティスリーも毎日ショーケースに並べており、ファンができて、毎日朝から、いくつも買っていくお客が絶えないということ。
現在はまってしまっているのが、写真のクランブル。フランボワーズ、マルベリー、リュバルブと、日替わりのフルーツをアーモンドクリームとともに焼きこんでいます。しっとりジューシーなアーモンドクリームとカリッとしたクランブル、タルト生地のハーモニーが素晴らしい。

職人の間でも話題になっているのか、ここ最近、厨房に、真面目で腕の立ちそうな若手の職人の姿も。人を育てる余裕がでてきたのでしょうか。
そして、毎日、スタッフを帰らせた閉店間際は、オーナー自らが店頭に立ち、ゴミ捨てもして終わらせ、最後まで店を見届けている姿には、頭が下がります。

それにしても、コロナ禍に引き続き、ウクライナ戦争などの影響で、原材料の不足と価格の高騰が続いています。スーパーでオイル、普通のヒマワリ油が欠乏してしまっているのには驚いていましたが、無論、プロの間でも、大きな問題になっています。小麦粉、バター、卵などが、欠乏ならびに高騰してしまい、値段をあげるしかないという状況だと、多くの業界の友人から話を聞いています。小銭程度サンチーム単位の動きですが、毎日消費するものだと、高騰を身近に感じてしまいます。「ラベイユ」のクロワッサンも幾分か値上がりしました(使うバターのせいか、味もかなりグレードアップしましたが)。

2022年のインフレ率は推定4.9%だそうで、家計の購買力は0.8%縮小するとの予想です。
9月の新学期からは、学校の給食の値段も上がり、家計や自治体の予算が圧迫される可能性がある。フランスを本拠地とするケータリングの大グループ、エリオール社によりますと、この3ヶ月で、牛乳16%、米13%、牛ミンチ肉22%などと、一部の原材料の価格が高騰し、1年平均でみると12%上昇したとのこと。

妥協のない品質を保ちながら、マージンを確保するために、エリオール社では顧客との契約ごとに再交渉を行って、コスト削減のための提案を行っているそうです。例えば、料理数を減らす、量を減らす、代替タンパク質の導入。エネルギー消費を抑えるために、ゆっくりとした調理、あるいは夜中の作業にシフトする、など。
また、こうした状況以前は、あまり多くの家庭では喜ばれなかった、ゴミを出さないためのレシピにも、見直しの声が高まっています。例えば、残ったパンで作るフレンチトーストや、シュークリームに、人参の葉を使う、など。

「クランブル」は、昔からあるお菓子ではなく、発祥はイギリス。第二次世界大戦下であることを思い出しました。
配給される小麦粉、バター、砂糖が限られており、家庭の母親たちはパイを作るのを諦めた。その代わり、皿の底に、周りで摘んだベリーなどのフルーツを敷いて、パン粉や、少量のバターと小麦粉、砂糖をかけてオーブンに入れた。
そんなレシピが案外人々を魅了して、今でも作られ続けている。

考えずに物を捨ててしまっていた、贅沢な時代は終わり。豊かさは人の知恵の中にあることに、クランブルは教えてくれているような気がします。
もっとも、昔のクランブルよりも、ひと工夫あって、材料にもこだわりのあるレシピが好まれ、しっかり進化していますけれども。
いずれにしても、技術と信頼に裏付けされて生み出されるものには、未来があるかと感じます。

今週のトピックスは今週のひとことの後に掲載しています。食業界の方々のヒントになりそうな話題を取り上げています!【A】カクテルバーで成功した「Experimental Group」が、高級ホテル業に躍進。【B】ビアリッツのパラス「l’Hôtel du Palais」がリニューアルオープン。【C】LVMHグループのサントロペのホテル「White 1921 Hotel」内、期間限定レストランにMory Sacko就任。【D】人気料理番組「Top Chef」のビストロオープン。

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