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京都祇園からの贈りもの @ パリ  食関連ニュース 2021.05.19

今週のひとこと

京都の中心地、鴨川のそばに住まう友人から鍵善良房の「菊壽糖」が先日届きました。鍵善良房は300年前の創業の和菓子店。名物の菊の形を象った和三盆のお干菓子の美しさにしばし見とれてしまいました。友人がすすめてくれる通り、緑茶、それにコーヒーにも合う。和三盆ならではの、ほんのりコクのある甘味、水分をゆっくりしっとりと含んでくれる口どけのよさで、質の良いお干菓子のそこはかとなさ、美味しさに、改めて心を打たれたひととき。

日本独自のサトウキビ、竹糖を搾って煮て灰汁を取って、結晶となった白下糖。その生地を手水をつけながら練る、というか、「研いで」は寝かすということを何度も繰り返すことで、余分な糖蜜は除かれつつ、程よくミネラルとビタミンの残った和三盆ができあがる。お盆の上で三回(何度も、しかしやり過ぎずという、日本人らしい当て数字かと)白下糖を研ぐことから、その名につながったそう。包丁もそうですが「研ぐ」という作業には、独特の精神性が込められていると思います。鍛練したあとに得られる悟りに近いもの。昔は糠が付着していたから、お米はしっかり研いでから炊いたものでしたが、そんな作業の後にいただいて、美味しく炊き上がったお米の美味しさは格別でした。

「菊壽糖」は季節にしたがって、色づくそうです。秋が深まり菊の季節がやってくると、紫、黄、桃色に染まる。お正月に決まって出される、あるいはお祝いに作っていただけると聞いた紅白の「菊壽糖」の美しさも眼に浮かぶようです。受け継がれている木型で作り上げられた繊細な菊花の美しい存在感たるや。菊を象っているのは、能の「菊慈童」の演目にもある中国の故事から。菊の露を飲んで700年生き、不老不死となった童子の話に因んだ干菓子だそうです。はかなくわずかな露にこそ、悠久の命があるという教訓。人類がいつの時代も追い求める不老不死。「研ぐ」ことで、時間が無になり悠久の命が宿る、という鍛練は、人間に背負わされた道筋なのだなとも思わされる、しかし東洋的で美しい「菊壽糖」でした。

今日19日から、フランスのテラスは開放され、喜びもひとしお。手放しで歓迎したいところではありますが、ワクチンを打っても感染する方もいらっしゃいます。どうぞ皆さん、健康に留意され、慎重に行動されますよう祈っています。

今週のトピックスは今週のひとことのあとに掲載しております。【A】「Sodexo」による健康的な循環型都市が来年誕生。【B】3つ星シェフ、ヤニック・アレノによる夏季限定のバーガーショップ。【C】アラン・デュカス傘下の魚専門店「Rech」移転。【D】2つ星シェフ、ミッシェル・サランのクロックムッシュ専門店がパリに進出。【E】パラスホテル「ル・プラザ・アテネ」のメインダイニングの行方は?デュカス、それとも?

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