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詩歌探偵フラヌール

■ 感想

「詩歌探偵フラヌール」高原英理(河出書房新社)P216

「フラヌールしよう」とメリが言う。双子の猫みたいなメリとジュンが遊歩者となり、名著とゆくゆく訊ねゆく秘密めいたフラヌール。

左川ちか全集の「プロムナアド」を読んでいて言葉の響きから思い出した本書。フランス語で「散策」「遊歩道」を意味するプロムナードと、フランス語で「遊歩者」を意味する「フラヌール」。響き合うようなふたつの音に誘われて読み始めると、左川ちか全集が作中にピックアップされていて吃驚。本から本へと辿り着く幸せを噛みしめた。

ある時は<林檎料理>、また別の日には<永遠>と、詩歌に誘われるままに歩く道程は名状し難い愉楽と不思議に溢れ、街角の其処此処で言葉が躍り出す。萩原朔太郎「殺人事件」の話をしていたと思ったら、ベンヤミン「パサージュ論」、連れてゆく、連れてゆかれるよ、こっちこっち、暗い方、街の秘密なところ、心地よく秘密めいた場所、と本編四行のうちに朔太郎からピーター・S・ビーグル「心地よく秘密めいたところ」へと会話が歌い出し、曲線を描くように流れていく軽快さも心地いい。

太宰「女生徒」に見る思考の一人芝居のようなテンポでふたりの会話が展開されていくのを目で追う愉しさは、まさにフラヌール!しかし、ゆるゆるふわふわだけでは非ず、数々の閃きに満ちた仕掛けに魅了される。

一番のお気に入りはエミリ・ディキンスンの特徴が鮮やかに組み込まれた<Dエクストラ>。ディキンスンが大好きで何冊も持っているのに、新倉、岡、両名の訳本を持っていないので是非そちらも読みたい。またいつかメリとジュンと一緒に、詩歌を読む歓びに包まれた街をフラヌールできることを夢見て。

■ 漂流図書

■歌人紫宮透の短くはるかな生涯|高原英理

フラヌール本編にちらりとその名が出てくる、高原さんの著作の人物・紫宮透。積んであるので是非近く読みたい。

高原さんの文章はどんどん読みたくなる中毒性があり、語彙力をかなぐり捨てて好きとしか言いようがない。

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