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眠れる森の美女 シャルル・ペロー童話集

■ 感想

「眠れる森の美女 シャルル・ペロー童話集」(訳)村松潔(挿絵)ギュスターヴ・ドレ(新潮文庫)P176

大人になって古くから伝わる童話を読むと、お金と美貌があればなんでも許されてしまうことやご都合展開に違和感や恐怖を感じてしまうけれど、ペローの童話の生まれた環境を知ると展開の背景に納得がいってしまう。

諸説ある有名な物語たちのペロー版は、当時宮廷や貴族たちに流行していたお伽噺を即興で脚色して語るサロン文化から生まれている為に、時代だけではない価値観や倫理観のずれが大きく感じられるのかもしれない。

この版では子ども向けの読み物として意識されたものではないため甘い描写ばかりではなく「赤頭巾ちゃん」は狼のお腹の中から救出されることはなく、辛辣な展開も見られる。それぞれのお話の最後にはペローの皮肉めいた教訓が添えられているが、その教訓も時代と共にアップデートされる感覚と乖離していくためピントのずれを生じさせ、現代人が読むと語り手のペローに皮肉めいた教訓を感じずにはいられない部分があることも面白い。

それでも長の年月を越えて生き延びた物語たちの骨組みの素晴らしさ、二次制作へと換骨奪胎したくなる人間味や、物語が秘めた奥行は心を捉えて離さず、何百年前もの文化や人々の思考を伝えてくれる物語を今もこうして読み続けられることに幸せを感じる。

この版では註釈のポイントが素晴らしく、仙女の持つ役割や、サンドリヨン(シンデレラ)の「灰」が意味する旧約聖書の話など、単語としての註釈だけに留まらない説明から興味がさらに深まる。ペロー版の「青ひげ」はあまり深みがないが、モチーフとして魅力的で、これからも様々な版や二次制作された物語を追いかけたい。そして何より、ギュスターヴ・ドレの挿絵が見られることが嬉しい。

■ 漂流図書

■巴里の憂鬱|ボードレール

お伽噺での仙女の役割の註釈に、ボードレールの「仙女たちの贈り物」についての言及があったので、本棚からすぐに引っ張り出したい。

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