装束と紐
先日、
『紐トレ介護術 (がんばらない、カラダが目覚める)』
という本を買いました。
紐をゆるく身体に巻くだけで、身体の機能が目覚める。というもので、具体的な臨床例などが沢山掲載されています。
以前もこの紐トレ講座に参加した経緯があったのですが、その講座を開催した北村さんと実はお友達で、先日も開催された紐トレワークショップ後の打ち上げの流れで、なんとなく本を購入する流れになったのです。
ところがところが・・・
読み進め、巻末に実際にどう紐を身体に巻けば良いのかの説明を見ていると、ひとつある事に気がつきました。
私の実家は、肥前の国に鎮座する神社の宮司家になります。
私自身も神職なので、白衣、袴、巫女をやるときには千早、神主をやるときは額当てや狩衣などの装束を身につけるような人生を送ってきました。
そして、面白い事に、和装というのはとにかく身体に紐を巻くんです。
着物を着る方なら、ここで「そうそう」と共感されると思います。
和装で最も要となる、重要な紐といえば「腰紐」です。
とは言え現在日本人で、腰紐と聞いて「うんうん」と思う方もなかなか居ないかもしれませんので、以下に和装。特に神職の装束に於いて、紐の身体に巻きつけられる率の高さについて順番に解説してみたいと思います。
■1.腰紐
旅館などに泊まった時、浴衣を着た事がある方はそれなりにいるかなと思います。
○どんなものか?
旅館の浴衣の帯は柔らかくて少し広くて長いと思いますが、腰紐はどちらかというと、電気のコードくらい細くてふわふわと柔らかいです。
○役割
着物を身につけ、直接帯を巻いたり袴を履いたりすると、ちょっと動いただけでずれてしまうので、腰から下の部分が乱れないために巻きます。
○巻き方
ここ、注目です。腰紐の巻き方です。
✖️ギュッと縛ってちょうちょむすび
◎ふんわり巻いてねじってからめる
え、ふんわり巻いてねじってからめるって、言ってる意味がわかりませんね^^;
腰紐は結びません。着物の位置を決めたら、骨盤の位置に腰紐を巻くのですが、強くまかずに丁度身体に沿うように二重に巻きます。そして、紐の両端を身体の前面で交差させて、それぞれの紐がやってきた方向と逆の方向にある腰紐に絡めて終わりです。
・・・言葉で説明するのが難しいので、そのうち動画かイラストを追加しようかな。因みに女性が身につける帯紐もそんな感じです。
つまり、和装をすると大抵腰紐を使う事になりますので、結び方は本で説明されていたのと若干違いますが、意図せずに「紐トレのへそ巻き」状態になるということです。
さて、腰紐は和装なら発生するものなので、「そうそう」と思った方も多いと思いますが、実はここから少しづつ神職ネタになってきます(笑)
■2.たすき
たすき掛け、という言葉を聞いたことがありますか?
応援団や阿波をどり、よさこい祭り等の盆踊り等で見られる、両肩に紐を巻いているアレです。
この、赤い部分ですね。
これは、着物の袖が作業中邪魔になるために、紐で袖が落ちてこないように留めているのですが、紐トレにはまさにネーミングから、このたすき掛けもありました。
神職の場合は、日常の作業も白衣袴で行う場面がありますから、たすき掛けもとても身近です。戦前和装が当たり前だった日本人にとっても、家事の時にお母さんがたすき掛けだったのではと思います。
■3.烏帽子・額当て
これはもう、大分マニアックになってきました(笑)
男性神職がかぶる烏帽子は、大河ドラマなどでみたことがあるかもしれません。
このようなものです。このイラストでは分かりにくいですが、現物は顎に回した紐で長さを調節して装着しています。
紐トレにも、まさに「えぼし巻き」というネーミングで、顎から頭頂に紐を巻くというものがありました。
また、女性の被り物では、例えば巫女さんなら花飾りのついた冠をかぶっていたり、女性神職の場合は額に装着する冠があります。これらも、冠に沿って通されている紐を、額から後頭部へ回して後ろで結ぶことで、冠を固定しています。
紐トレでは、「はち巻き」として、額から後頭部に紐を回す同じ巻き方がありました。
■4.雪駄、草履、下駄
これは、殆どの方は履いたことがあるのではないでしょうか。ない場合はビーチサンダルをイメージして頂いても良いです。
草履は本来、親指と人差し指で鼻緒を挟んで履くものです。つまり、指の付け根の辺りに鼻緒の布が当たるのは、本来ふんわり触れるイメージになります。
紐トレでは足指巻きとして、全体の指にゆるく紐が巻かれていましたが、草鞋や草履などでも、同じような身体効果があるのかもしれないなあと、読んでいて思いました(どうなんでしょう??)
【閑話休題】
過去に、神職が参加する研修会の担当をやった事が何度かありました。ところが、研修会が始まってから熱を出して倒れ、講義中に病院で点滴を打ってもらったという経験をした事がありました。
ほんとうにしんどくて、でも休憩時間には人に気づかれないようにシャキンとしていなければ・・・と背筋を伸ばそうとしたのですが。
もちろん神職ですので、白衣袴姿です。白衣袴姿でぐったりするのって、すごく難しいんだなあと、その時実感した事を今でもよく覚えています^^;
■5.熊野詣での装束
もはや神職とは関係なくなりましたが、平安時代に盛んに行われた熊野詣で。
以前熊野詣でに行った際に、那智大社の傍に当時の貴族が熊野詣でをする際に着ていた装束を着せてくれる茶店があり、それを着せてもらった事があります。
これです。これを着て那智大社を参拝出来るとか感涙ものです。
で。
写真をよく見て頂くと、胸のところに赤い紐が巻かれているのが分かりますでしょうか。何故かここに、謎の紐が巻かれたんです。
紐トレでは、ちょうど胸巻きと紹介されている場所です。
この時は腕ごとぐるっと、まるで人質のように巻かれていましたが(紐トレの場合は、腕は一緒に巻きません)なんだか、紐を巻く身体のポイントが、同じだなあと本を読みながら、ひとつひとつ浮かぶ心当たりになんだか面白くなってきました。
取り敢えず、本で紹介されていた紐トレのうち、身体に紐を巻く部分について、ほぼ「あ、あれと同じ。似てる」と思う心当たりがいちいちあったので、面白くなって書いてみた次第です。
特に昔の日本人の身体能力の高さが、この「日常的に身体に紐を巻いている」事から来ているなんて、実はありそうな気もしますよね。
なかなか神職の装束については、こういう話をする場面もないだろうと思うので、面白かったと思った方はぜひぜひ、スキをお願いします(笑)