CoCo壱で15辛を食す
職場の先輩で、辛いものを愛してやまない人がいる。その人と仕事でペアを組んでいた時は、1ヶ月に一度、昼休みに辛くて有名な店に行く慣例があった。ラーメン屋の中本の北極ラーメンや、紅という府中のラーメン屋の鬼紅ラーメン、陳麻婆豆腐の大辛など、あらゆるお店の激辛商品たちを制覇してきた。先輩はいつも涼しげな顔で「うめぇうめぇ」と勢いよく平らげていたが、僕は汗と鼻水で顔をくちゃくちゃにしながら何とか完食していた。
当然、CoCo壱の激辛カレーにもチャレンジことがある。10辛が最大の辛さなのだが、それはもう常軌を逸した、もはや暴力ともいえる辛さなのである。この時僕はライスの多さで辛さを誤魔化そうという魂胆でライスを500gで注文したのだが(通常は300g)、ライスと比例してルーも一緒に増量して運ばれてきたので、無事に死亡した。グロッキー状態でその日の午後は使い物にならなかった。
それ以来、CoCo壱で10辛を食べることは避けていたのだが、最近これ以上の辛さが選べるとの情報が入ってきた。なんと15辛が登場したのだという。
そんな阿呆なことはやめてくれと思った。単純に考えれば15辛というのは10辛の1.5倍辛いことになる。そんなの人間が食べられるわけがない。悪ふざけはやめてほしい。面白がって無闇にチャレンジする人が出てきてしまう。ほら、目の前にいる先輩が目を輝かせて僕に「行こうよ」と誘いかけてきている。
そんなわけで、CoCo壱の15辛にチャレンジしてきた。
今までの反省を活かし、朝ごはんをしっかり食べ、CoCo壱に行く前にコンビニでヨーグルトドリンクを飲んだ。完璧な事前準備である。そして、ライスは350gで注文した。
運ばれてきたカレーは、ぱっと見では特に辛さを感じさせない見た目をしていたが、よく見るとルーがドロっとしている。スプーンにすくって落とせば、サラーッではなくボトッと音がなりそうだ。自ずと唾液の量が増えた。
恐る恐る、一口食べてみる。火を吹くような辛さを感じるかと思いきや、意外とするりと食べられた。辛いには辛いが、耐えられないほどではない。ちゃんとカレーの旨みも感じる。激辛狂信の先輩に鍛えられたのかもしれない。己の成長を実感した。
しかしだんだんと、15辛の攻撃はボディーブローのように効いてきた。まずは喉に違和感が出てきた。痛いのである。ヒリヒリ灼けるように喉が痛み始めてきた。それから舌が熱く燃え上がるような感覚になり、胃袋からもそこにカイロがあるんじゃないかと錯覚しそうなくらいのホット感が出てきた。鼻水が止まらなくなった。あぁ、今思い出しても、きつかったなぁ。
「ゆっくり食べなよ。無理しなくてもいいよ」
優しげな声をかけてきた先輩は、涼しげな顔で僕の皿を見つめていた。先輩の皿は既に空だった。食べ始めてまだ10分くらいである。どうかしていると思った。早いですねと僕が言うと、
「まぁ、久々にちょうどいい辛さに出会ったよ。ハハハ」
どうかしていると思った。
水を飲んだらきっともう食べられなくなると感じ、ゆっくりと、何度も休みながらスプーンを口に運んだ。頭がぼわわわんとしていた。机にティッシュの山が築かれた。
もはや拷問に見えなくもないだろうが、実はこの感覚を楽しんでいる自分がいる。マゾ気質だと思われるかもしれないけれど、なんだか己の限界にチャレンジしている気がして、たとえば筋トレに近いような、自分を追い込む感じが少し好きなのである。
40分くらいかけて、最後の一口を食べ終えた。その間先輩はドラゴンクエストウォークでメガモンスターの討伐を行っていたが、きっとそれ以上の達成感が僕にはあった。
正直な感想を言うが、やはりCoCo壱なだけあって味はしっかりしていた。単純に辛さの暴力というわけではなく、美味しさも感じられるからこそ、完食できたのだと思う。ただ、15辛はリピートするようなものではないと思う。一回だけで十分である。もう僕は懲り懲りである。
そして案の定、午後は腹痛との格闘を繰り広げることとなった。仕事の合間に激辛を食べることは、頭の良い人なら止めるべきである。今も腹からゴゴゴゴと音が聞こえる。今日の夜は長くなりそうである。
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