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ダメ編集者の素人デザイナーが語る「デザイン依頼」の話。

2回目の大学(通信制)を卒業して以来、チラシやハガキなどのデザインの仕事もするようになりました。

「発注される」立場になって、ホントに「ちゃちゃっとよろしく」っていう発注があるんだなぁと思って、ちょっと笑ちゃったりもしました。システム系のお仕事でもよくSNSネタになってる無茶ブリ発注、発注者側にプログラミングの知識がないから(必要なのに)と言われてますが、デザインに関しても同様なんじゃないかと思ってます。

私は20数年の社会人生活の中で、編集者として「発注する」立場になることが多かったのですが、思えば、そこで出会ったデザイナーさんや印刷会社の営業さんが、根気強く、いろいろなことを教えてくださったんだなぁと思います。印刷会社への入稿の現場に立ちあわせてもらって、デザイナーさんから印刷会社さんにどんなデータと情報が渡っているのか(当時はまだアナログな部分が多かったので「入稿袋」がありました)、そこでどんな確認が行われるのかを知ることができた。そもそも会社で編集者向け初心者研修を受けさせてもらえたのは大きかったんだと思います。基本的な制作工程をなんとなくでも理解することができました。

ネットで入稿できる簡易印刷が増えて、こういうシーンも減ってしまいましたよね。誰にでも印刷物がつくれるって、とてもいいことだなぁと思う反面、簡単にできるがゆえにデザイナーが何をしているのかが想像されなくなったのではないかとも思います。「ちゃちゃっと簡単にできるんでしょ」以上のことを想像しなくなったというか。発注者側もデザインについて、というか、そこでどんなことが行われているかの理解は必要。でもこれは、発注者だけの責任ではなく、デザイナーがもっともっと情報発信をし伝えていくべきなんじゃないかとも思っています。

ここでは、デザイン依頼をする方(発注者)に「デザイナーからお願いしたいこと」という視点で考えてみたいと思います。

●印刷物がどうやってできあがるのか、
 デザイナーはお伝えできます。

何もわからない素人だったころのことを思い出すと、印刷物がどうやってできあがっていくのか、そのためにデザイナーが何をしているのかなんて、全くわかりませんでした。印刷会社へお渡しするデータがどういう状態であるべきなのかとか、全くイメージがつかないですよね。

例えば「トンボ」
「文字のアウトライン化」とか
「塗り足し」とか。

最近はネットで発注できる簡易印刷のサイトに「テクニカルガイド」に記載がありますが、素人にはわからない言葉だらけです。いっそ、印刷発注の代行まで含めてデザイナーに依頼してもらった方がスムーズだったり・・・。
こうした、印刷物が完成するまでに、デザイナーの手元でどんな作業が発生してどんな手順があるのかがわからないから、全く悪気がない無茶ぶりが発生するんじゃないかと思ってます。が、わからなければ、聞いてもらえたらいいんです。みんなちゃんと説明してくれますから。印刷会社はどこに出す予定なのか(またはどこに依頼したらいいのか)、そのために何が必要なのか、また、どんなタイミングで印刷会社と相談したらいいのかも、デザイナーが相談に乗ってくれるはずです。

あと、PDFデータください、とかいうのも実はけっこうな落とし穴です。最近は、紙の印刷物のデータをWEBサイトにPDF形式で掲載することも多いと思います。ですが、印刷データの入稿後に「WEB用にPDF”も”ください」は、入稿データとは「別」でトンボなどが入ってないデータを用意するという作業が発生するということです。ちゃちゃっとできると思ってませんか?簡単なやり方も工夫はできると思いますが、そもそも、制作物の使用目的・使用シーンは発注段階でわかっているはずですから、必要ならあらかじめお伝えいただくべきです。場合によっては価格が上乗せになってしまう可能性だってあると思います。

●制作工程の組み方も相談してください。

依頼するにしても、どんなスケジュール(制作工程)を組んだらいいかわからない、っていう方も多いんじゃないでしょうか。ふんわりとした「なるはやで欲しいです」っていうの、実は進め方がわからないだけだったりしてませんか?

「発注する」側にいたかつての私の勤務先は、月刊の子ども向けの学習教材だったこともあり、制作工程管理が、おそらく他の媒体よりもシビアだったんだと思います。特に、内容の検討と校正。内容が間違っていないことが当たり前のものなので、どのタイミングで・どんな観点でチェックをするのかが明確に決まっていました。といっても、順調に進められていたわけではなく、後工程で修正が発生して、遡ってやり直す時間がかかって、さらにミスを誘発して・・・なんてトラブルを起こしてたダメ編集者でした。こうならないようにするために・・・制作工程をしっかり組み立てていくことによって、ミス・トラブルを回避し、それ以上にクオリティをよくしていくこと。これは結果的にリードタイムを短くすることができ、ムダなコストの削減にもつながります。

そんなこともあって、スケジュールや工程がよくわからない依頼に、ついつい「危険な香り」をかぎ取ってしまいます。これは入稿直前で大直しが入ってスケジュールが後ろ倒しに→ミスが発生しやすくなるヤバい案件だぞ、と。公共事業の印刷物なんかは要注意ですね。入稿前にやっと課長クラスのチェック→イチからやり直し、なんてこともホントにあるので、編集者的立ち位置でも、公共事業は注意が必要な仕事だと思ってます。

だからこそ、そのあたりのヤバさも含めて、いつまでにどんな原稿・素材をそろえていただく必要があって、どのタイミングで誰がどんなチェックをするのか、どれくらいの期間が必要なのか、デザイナーの作業時間だけでなく、クライアントのチェックバックや編集者(発注者)の作業時間も含めた制作工程を、デザイナーと相談しながら一緒に組み立てましょう。発注者が自分で組めるならそれに越したことはありません。それをたたき台にして、デザイナーに相談してみたらいいと思います。もしもスケジュールの組み方がわからないならわからないと伝えてください。やみくもな「なるはやで」がいちばん困るんです。

●仕事の状況は、極力お伝えします。

これはもしかしたら、もっとデザイナーが注力すべきポイントかもしれません。

よく「このデザイナーさんは仕事が速い(または遅い)」という言われ方を聞きます。人によって作業の早い遅いは多少はあるかもしれません。でも、それってあっても微差なんじゃないかと思っています。デザインはPCを使うとはいえ、手を動かす時間がほとんど。あたりまえですが、かかる時間はひとつひとつの作業のつみかさねなので、絶対量が同じであれば個人差はそんなにないはずです。(ただ、アイデアを考える部分の時間のかけ方は、いろいろだと思います。本来はしっかり時間をかけるべきところ。今回は作業時間のみに絞って話を進めたいと思います。)

素人デザイナーの私は、デザインとは全く関係のない仕事も同時並行で動かしています。本業のデザイナーさんの場合は、すでに別の案件を持っているはず。ということは、依頼を受けたとしてもすぐに着手できないケースの方が多いのではないでしょうか。もしも発注後にデザイナーがすぐに着手してくれたとしたら、それは別の案件を「止める」「後回しにする」をしてくれているかもしれない。別のところのシワ寄せが行っているかもしれないということです。社会人でヒマな人なんているわけがありません。「すぐ着手してくれ」という発注は「お前ヒマだよな」みたいな、すごく失礼なことを言っているかもしれないという自覚は持っていただきたいところです。「誰かに仕事をお願いするということは、自分のために時間を割いていただくということ」です。これもかつての勤務先で、先輩から何度も言われてきました。時間をあけてもらってるのだから、安易なスケジュールの後ろ倒しとか、ダメだから!と。

一方で、発注を受けたけれど、実際に着手できるのが「先」になる(すぐには着手できない)ようであれば、それはデザイナー自身が伝えるべきではないかと思っています。仮に5日後まで着手できないとしたら、発注者にとってもその5日間がムダになってしまいますし、着手すればすぐにできる案件であったとしても、相手からみたら「5日かかった」という評価になってしまうので、デザイナーにとってもデメリットが大きいと思います。いつ・どれくらい時間が取れそうなのか、デザイナー自身の状況も開示した上で、現実的なスケジュール(制作工程)を一緒に相談できるとベストではないかと思います。「急ぎで」という案件の場合は特に、双方の現状もふまえた現実的な工程を考えたいところです。

●完全原稿をめざしてください。

これもかつての勤務先で叩き込まれたことですが、「デザイナーをオペレーターにするな」と。

これまで出会ったデザイナーさん、どの方もほんとうにすごい方たちでした。伝えたいこと・実現したいこと・解決したいことを、レイアウト・カタチ・色・絵・・・要するに「ビジュアル」を駆使して、文字通り「カタチにしてくれる」。編集者(私)がラフレイアウトをひいて依頼をしたとしても、それ以上に伝わる・解決されたカタチになってアウトプットされてくることに、驚かされることばかりでした。
デザイナーってすごい。デザインの力は本当にすごい。
デザイナーという仕事そのものに魅かれた理由のひとつはそんな体験にあったように思います。

そんなすごいことができる人たちに、原稿の誤字脱字の修正なんか、できればやらせたくないと思ってます。デザイナーの仕事って、ページ単価が一般的なので、ムダな修正が多ければ多いほど時間単価が下がっていくっていうことになります。お渡しした原稿が甘かったのに修正させているのだとしたら、それは、発注者の責任なのに、です。言ってみれば、定額働かせ放題になってしまう。そんなブラックな仕事ではなく、デザイナーの本来の力を存分に発揮できる仕事の発注ができるようにしたいところです。

そのためには、発注段階での要件定義の精度はかなり大事になってきます。
 ・媒体はなにか
 ・ターゲットは誰か(誰がみるものか)
 ・ターゲットにどのような行動変容を望むのか
といった「企画」に関わる部分を明確にすることのほか、
 ・掲載すべき文字情報はなにか
 ・ロゴデータや写真は何が入るのか

いわゆる「要素」をしっかりと洗い出しておきましょう。
文字情報に関しては、テキストデータの支給はお願いしたいです。固有名詞に関するものや住所・メールアドレスなどは、できるかぎり元ネタからコピー&ペーストすることをおすすめします。打ち起こしはミスにつながります。また、デザイナーに支給する「前」に、内容の検討(企画に沿っているものなのか)を充分にすることと、発注者自身で誤字脱字のチェックは一度はしておきましょう。意外とここ、抜けがちになるんじゃなかと思います。
ロゴデータや写真などの素材は、どんな状態(データサイズやデータ形式)のものが必要になるか、デザイナーと相談してみるといいと思います。権利関係に関しても、確認が必要なものはデザイナーに渡す「前」に確認をしておく方がいいです。デザイナーのところでレイアウトを組んだ「後」に差し替えも可能ですが、ミス・トラブルが発生するリスクが残ってしまいますので、つぶしておけるのであれは、それに越したことはありません。

未決事項を後まわしにせず、
なるべく前工程で決めて完全原稿をめざしてください。
こうすることで発注者自身の仕事もラクになるはずです。


●解決したい課題は何かを語ってください。

できあがったアウトプット物のクオリティは、デザイナーの力量によって差も出るでしょうが、それ以上に、発注者の意志や企画の精度による差の方が大きいと思ってます。結局のところ、どんな課題を解決したいのか、発注者の意志や望みがいちばんキモ

なぜなら、デザインは課題解決の手段だから。

あくまで「手段」なのですから、そもそもの目的をクリアにし、デザイナーに対してしっかりと語っていただくことが、お互いにいい仕事をするために最も大事なことなんじゃないかと思っています。



↓全くデザイナー色のないプロフィールですがデザインの仕事もしてます↓

松倉由紀
キャリア教育コーディネーター・教育研修プランナー。1975年長野県上田市生まれ。静岡大学人文学部卒業。地元での就職に失敗(4か月めで退職届!)ののち、大手通信教育会社、人材派遣会社、コンサルティングファームを経て現職。キャリア教育の領域で教育プログラム開発と「しくみ作り」をする「企画屋」「クリエイター」であり「風呂敷たたみ屋」。2016年4月個人事業主から法人成り(株)ax-factory(https://ax-factory.wixsite.com/corporate)を設立。2020年京都造形芸術大学通信教育部(グラフィックデザイン)を卒業。デザインで学びをおもしろくします。
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