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韓国を通して見えた、中国への違和感の正体

外国人の友達

この島国、ニッポンではこの6文字がいまだに特別な響きを持っている。

私も高校生までこの島国ニッポンで、
外国人の友達なんて持つことなく暮らしてきたのだが、中国語と出会ってからたくさんの中国人の友達を持った。

中国語を使ってみたり、相手の拙い日本語を頼ってみたり。

異文化にまみれて、外国人と関わるということは驚きと楽しさを連れてくる。

私はすっかり異文化の虜になって、中国人や香港人との関わりに酔いしれて、本当にいろんなことを勉強させてもらった。

中華に生きる彼らの考え方や言葉はいつだってプラス思考で、前向きで、力強くて、私はあらゆる人生の局面において彼らの言葉や生き様を心の支えとして突き進んできた。

だから。

多少の違和感だって、「異文化だから」という魔法の言葉で握りつぶしてしまっていたところがあったんだなあ、と今にしてみると思う。

中国は私にとっては、恋愛対象であり信仰対象で、私の全て。

だから、その国から来た中国人だって私にとっては絶対的な対象だった。

そんな私の目の前にひょんなことから現れたのが、1人の韓国人の男の子だった。

18歳で来日、日本の大学を卒業して、
韓国男子に課されている兵役も乗り越えて、
今は日本の会社で働くサラリーマン。

彼は流暢な日本語を操って、私といろんな話をした。

彼と話しているとなんとも不思議な気持ちになる。

ネイティブ顔負けの流暢な日本語を操りながらも、確かに異国の空気は持っている。

日韓が近い国だとしても文化の違いは大量にある。

彼は私にとっては、初めて関わった日本人でも中国人でもない外国人だったのだ。

そして、私vs中国という一対一の関係性に、
新しいレンズを持ってきた。

真っ赤なサングラスをかけていて霞んだ視界が、
クリアになっていく感覚。

韓国。

彼の国は東アジアに存在してる民主国家。

激動の近代史の中で自らの力で民衆が血を流しながら民主主義を勝ち取った歴史を有し、
自由と民主を謳歌し、追求し、守り続ける国である。

そして、現在も北朝鮮という世界有数の独裁国家と国境を接していて、停戦状態という異常事態。

その北朝鮮の背後には中国、さらに北に行けばロシア。

まさに、自由と民主の境界線、水際。

独裁と対峙する最前線に立っている国からやってきた彼と出会い、自国の事象や歴史や文化を流暢な日本語を駆使して話すその語り口を酷く眩しく思った。

中国語を勉強し始めて、やっと聞き取り話せるようになった頃。

こんなふうに数え切れないほどの中国人と言葉のやり取りをしてきた。
そこには歴史や文化の話も少なからず含まれていて、私は頼りない中国語で自分の考えも述べてきた。

彼と話しながら、日中戦争について中国人と語り合った時のことを思い出していた。

「南京で30万人を日本軍が殺した南京大虐殺」

「人体実験をした731部隊」

センセーショナルな事象に対して、
日本軍という圧倒的なヒールと、中国人という被害者という構図は堅牢として崩れることはなかった。

基本的にはそうだと思うし、その見方に異論はないが。

たとえば南京事件については犠牲者数には議論の余地もあるし、南京にある資料館の内容全てが本当に歴史的検証に足るものなのか。

そして、それを描いた多くの映画たちが果たして本当に史実に基づいたものなのか。

iPadに映し出される残酷な映像をぼんやりと眺めながら考えた。

「過去は過去、今からよくしていけばいい」

そんな言葉で結ばれる日中歴史談には、いつも私の方にだけ違和感が残った。

こちらの意見や反論を、
優しく優しく笑顔で小さな子に諭すように

「日本は教育がよくないから、教えられてないからあなたが理解できないのも仕方がないけれど…本当はこうなのよ?」

と、悪意のない少し哀れみも混じった語り口は限りなく優しくてそれが悲しかった。

こんなふうに、「教えてあげる」という優しさで自分の意見や思いを何回も飲み込まされて塗りつぶされてきた。

そう、この無邪気で優しく自信満々な中国人の素敵なところ。

私の大好きな中国人の一面だけど、
これは裏を返せばどこまでも自分が正しく疑うことを知らない、相手の気持ちに寄り添うことができないというところでもある。

中国人というのは、中国人だけの世界を持っている。

たくさんの在日中国人の友人がいるけど、
彼らは小红书という中国のインスタグラムのようなSNSで情報をとり、百度という中国のGoogleみたいな検索エンジンで検索して、wechatで中国にいる友人と繋がっている。

日本にいたとしても、基本的に彼らがそこから飛び出してくることはない。

強烈な力で彼らの世界にこちらを引き摺り込んではくるけれど、出てはこない。

だから、日本にいたとしても中国にいたとしても彼らの思想が大きく変わることはそんなにない。

日本に来て、自由と民主の空気を吸って、
自国の矛盾に気がついて涙を流す…なんて劇的なシチュエーションはむしろレア中のレアケースなのだ。

むしろ、中国と違って監視カメラがなくて、
警察が優しくて、公務員は親切で医療費が安い日本の、性善説に基づいた社会は中国人にとっては「ちょろい」くらいのもので。

その社会を支える自由や民主主義について思考が至ることは稀だろう。

だから、
たまに中国人に自国の政治についてどう思うか聞いてみると、

「国が大きいし人口だって多いし日本とは違うんだから、中国を統治するにはやっぱり今の形しかないと思う」

と、言ってのける。

自分は、自由と民主の日本にいるくせにその言い種はないでしょ…と思うけどそれもまた1人の中国人の意見なのだろう。

でも、それが普通と思ってた。

日本だけが自国に対して厳しくて、外国人はみんな無条件に自国至上主義と思っていたけれど、
韓国人の彼の登場によって

私の中の外国人=中国人という構図が音を立てて崩壊して、見えていた景色が変わっていった。

「日本のこういうところは確かにダメですけど、
韓国にはないこんないいところがあります。
両国ともに問題があって、一つ一つを考えた結果僕は自分の人生にとって、日本に住みたいと思いました」

と、瑣末なところから丁寧に拾い上げて日本と韓国を限りなく公正な視点から比較していく様は非常に興味深くて新鮮だった。


「偉大なる中国!中華民族の復活!」
「愛する祖国!」

自国ファースト、他国ヘイトを国家ぐるみでやる国しか見えてなかったところにさあっと風が入ってきたような感覚だった。

彼は、韓国を愛している。

自国の歴史や文化やもちろん韓国料理も愛している。

だから、大阪にある日本語が通じるかどうかよくわからない怪しい韓国料理店で韓国語で料理を注文して満足そうにパクパク食べながら得意げに自国の食文化について語る姿は中国人にそっくりで懐かしくて笑ってしまった。

そうそう。

中国人も食べ物の話が大好きで、
私は中国語を舌の上にのせた中華料理から学んだと言っても過言ではないほどに中国人からは中華料理の話を聞かされた。

でも、ここでも彼と中国人の友人たちとでは大きな違いがあった。

実は、日本でも何度も中国人たちと中国料理を食べたことはある。

「やっぱり料理は中華に限るよ。
日本料理はなんか口に合わないし種類少ないし。
野菜も少ないからやだそれに比べて中国は…」

「やっぱり今日は中国料理にしようよ。
美味しい火鍋を食べに行こう。中国料理が1番美味しい」

自国ファースト、食でも炸裂。

中国料理が美味しくて最高なのはわかるけど、私の国の料理、日本食より素晴らしいってそんな目の前で言われたら私どんな顔してればいいんだ?と思いながら愛想笑いをした。

無邪気な彼らはきっと愛想笑いなんて気がつかないだろうけれど、、。

目の前に座って嬉しそうに私に韓国料理について解説する彼の言葉は中国人とはやっぱり違う。

「この料理はやっぱりおいしいですね。
日本にも似た料理がありますよ。なんてなまえだったかなあ。僕はあれも好きですけど、韓国のこの料理も大好きなのでぜひあなたに食べてみて欲しかったんです」

舌の上の世界旅行。

彼は、日本人の私と同じように純粋に異文化を楽しんでいた。

異文化のものを口にするとき触れる時に必ず自国との優劣をつけて自国が勝たないと気が済まないなんてことはなくて。

公平に、難しいことは考えず、心のままに純粋に異文化を楽しんでいる姿に衝撃を受けた。


本来文化に優劣なんてなくて、
全ての文化はそこにある人々共にあり尊重されるべきであり、それを目の前から純粋に楽しむことがその文化に対する最大のリスペクトだと私は考えている。

そしてその姿勢で中国に向き合ってきたけど、この姿勢は中国人と共有することは難しかった。

中国が1番いい!という結末にならなくても、
中国はダメ!日本最高!とか、アメリカ最高!とかとにかく中国人という人たちは、優劣をつけずには気が済まない性分なのだろう。

そしてこの優劣がつくたびに

「ああまたわかってもらえなかったかあ」

という緩やかな諦めで心に小さなヒビを入れてきたのだ。


もちろん、彼1人を以て韓国人を論ずることはあまりにも乱暴なことだとわかっていながら、敢えてこの話を進めていくなら。

やはり彼は、日本と同じ自由と民主の国で、民主主義社会の中で生きる教育を受けてきた人間なのである。

そして、インターネットや書籍での言論が制限されない国の中で多様な意見を自分の意思で選択して自分の思想を作り上げてきた人間の思想というものには芯があって、それぞれの人間がそれぞれ違う考え方を持っている。

国家が人民が発する言葉や目にする言葉を管理して、金太郎飴のような同じ思想や思考を14億人に植え付けて、好きなようにコントロールする国の人間の意見は、一度そこに矛盾が生まれると壊れたテープレコーダーのように同じ言葉を繰り返されるか、発狂したように怒られるかでそこに議論の余地はなかった。

彼もまた、韓国語と日本語を駆使して様々な経験をして、様々な情報を取り、自分の頭でいろんなことを考えてきて、
それは民主国家の国に生まれた人間なら誰だって多少はやってきてることだけど、中国にはそれがない。


つまり、私は私の国と同じ民主主義の国から来た人間と出会ったことによって、世界の中で中国という国とそこに住む人たちがいかに特別で変わったものなのかを恥ずかしながら中国と関わって8年目にしてようやく知ることができたということになる。

誤解しないように書き足しておくと、
中国にも聡明で、自分の頭で考えてしまう人たちがいる。
英語や日本語を駆使して、中国共産党が作った情報の檻から抜け出して自由の国の意見や思想を知ってしまって苦しんでいる人たちがいる。

そう。

中国という国では、自由の空気や思想を知ればそれは自分を苦しめるものになるのだ。

決して手に入らない自由の味を知った後、
中国の体制の異常性に気がついてしまったら、
もうそこで無邪気に生きていけない。

だったら、偉大なる祖国と、中華民族の美しい物語に酔いしれて14億人に中国共産党が上映し続ける甘やかな無責任な夢に酔いしれていた方が楽なのだ。

そして、中国社会ではその方がうまくやっていけるし、自分を守る術なのだ。


それは、私だってわかっているし、
実際苦しんでいる中国人たちの話を直接聞いたこともある。

昔は全然ここまで深く中国の教育や体制について深く考えたことがなかったけれど。

日中戦争の歴史を扱い、国家レベルで子供達に愛国教育の名の下に日本への憎しみを植え付けてプログラミングするように洗脳していく中国の在り方。

一方で、

併合された歴史を持ちながらも、冷静になって公正な視点で日韓で起きた事象とそこについての国民感情を民主的な立ち位置から教育を行う韓国の在り方。


もちろん、日韓にだって徴用工問題や慰安婦問題などなど歴史問題はあるし、
極端な意見を言う人はどこの国にだって存在している。

だけど、同じように歴史上日本に加害を受けてしまった二カ国の在り方はあまりにも違う。
その教育のあり方は今の若年層世代の日中関係日韓関係を見ればどちらが理想なのかその正解は明らかだ。

日韓を、人々が絶え間なく往来し、文化が往来し、若者世代がそれぞれの文化を尊重しあってる関係性。

でも、日中は常に緊張状態で、バチバチ愛国教育に染まった若者世代は愛国の名の下に抗日映画のポスターの写真を中国のSNSに載せて自国への愛を語り続ける。

遊園地に当たり前に「日本兵をやっつけろ」なんてゲームが置いてあって、小さな子供が「日本人死ねー!」といって銃のおもちゃでそれを撃ってる。

中国某地方都市にて撮影

水戸黄門のノリで抗日ドラマをお年寄りが見てる。

国家が日本へのヘイトを煽って国民感情をコントロールしてる。

韓国では、歴史問題について韓国人が「いや、韓国側の捉え方はおかしい」と言っても、それは一つの意見であり個人のものの見方として反対意見や賛成意見やさまざまな言葉が交わされるだろう。

だが、中国では国家の考えに反する意見を発したら最後、社会的にバッシングを喰らい人格を否定され、職を失い、場合によっては姿を消すかもしれない。

言論の自由がないとはそういうことで、
自分の目で見て感じたことを言葉に出すことができるという自由の意味を、
長く中国しか見てこなかった私はあまり深く考えたことはなかったんじゃないかなあと思う。

日中の関係性は国家が管理する中国の国民感情に振り回されていつだって不安定で、
両国を日韓のようにワクワクした若者が往来するには程遠い。

長らく中国と関わってきた若者として、
この現実が結構悲しい。

日韓の若者同士の関係性があまりにも眩しい。

お隣の国、民主の国からやってきた1人の韓国人との出会いから、私はまた一つ中国に対しての見方が変わった気がしている。


この違和感の正体をどこまでも突き詰めて、
どこまでも中国に近づいてもっと深くいろんなことを考えてみたいと思う。

それから、もっと別の国のことも知りたいなあと思った。

8年間中国しか見てなかった。

青春ぜんぶ中国に渡しちゃったから。

ここから先の人生はもっと広い視界で中国と日本を真ん中に置いてもっともっと自分の世界を広げて、広い視点からさらにいろんなことを考えていきたい。

なんてこと、目の前に広げられた韓国料理と緑の瓶のお酒を韓国人独特の手つきで開ける彼の姿を見ながらほろ酔い気分で考えていた日曜日の幸福な午後のお話。

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