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#言葉
「言葉は歌なり 歌は言葉なり」
父はよく、私に歌を歌ってくれた。おそらくセネガルでは定番の、子供をあやすための手遊び歌のようなものだった。記憶が正しければ、それは「ラーインベレ、アフジャマノ」というような、セネガルで話されている“ウォロフ語”らしい歌詞から始まり、それからしばらく単調な調子が続く。私が「パパ、あれやって」とねだると、父は笑顔で手をたたきながら歌いはじめ、私も手を叩いてそれをまね、まもなく起こることへの期待に心拍数
もっとみる「自慢じゃないけど」
「自慢じゃないけど」と、祖母はよく口にする。
リビングの棚には私が持ち帰ったウィスキーが何本か並んでいる。バランタイン、オールドパー、イチローズモルト。人から譲ってもらったものがほとんどなのだが、中には太っ腹な紳士が気まぐれで寄越すような、なかなか手に入らない高価なものもあったりする。
声は小さい、気は強い
私は声が小さい。
言葉を話せるようになった瞬間からずっと小さい。話す速度ものろくて、抑揚もあまりない。どうしてこうなったかはわからない。物心がつき、いくつかの言葉を発したあと、私はこのくらいの音量が私には最適と考えたのだと思う。
もしかしたら、最初は声の大きく短気な父を刺激しないためだったかもしれないし、べつに理由なんてとくになくて、ただ母の話し方をそっくりそのまま受け継いだだけかもしれない。