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なぜ今、対話が必要なのか、どんな対話が必要なのか、なぜ私たちは対話ができないのか

新型コロナウイルスの広がりを機に、私たちは現在、様々な課題に直面しています。

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これらは相互に影響を与え合い、個人や組織、地域・国家レベルで解決が急務となっています。

さらに、新型コロナウイルスが流行する前から、地球規模で取り組むべき課題も山積していました。

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私たちが直面している課題は次の大きな4つの特徴があります。

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そもそもなぜ、私たちは今、このように「解決が非常に困難な課題」に直面しているのでしょうか?

それは、私たちが、課題に直面することによって進化をするとともに、進化をすることで新たな課題を生み出してきたためです。

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例えば現在のように自動車や鉄道、飛行機などがなければ、ある地域で発生したウイルスが短期間で地球全体に広がるということもなかったでしょう。

現在のように通信技術が発達していなければオンラインでのコミュニケーションやリモートワークによって起こる課題も生まれてはいなかったでしょう。

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このように私たちは、課題の解決や欲求の実現のために道具や技術を発展させ、それによって起こる生活様式や関係性の変化の影響を受けてコミュニケーションを発達させてきました。

コミュニケーションが発達すると、それまでとは違ったものの見方や考え方をすることができるようになり、さらに意識が変容するということを繰り返してきました。

そして今、私たちはまさに新たなる生活様式や関係性をつくっていくという局面に立っています。

この局面でどのようにコミュニケーションをアップデートさせることができれば私たちの意識が変容し、さらなる進化の道を歩むことができるのでしょうか?

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それを考えるために、まずはここまで人類が辿ってきた道具や技術の発展とそれに伴うコミュニケーションの発達の歴史を振り返ってみましょう。


人類進化のあゆみ

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45万年前、火を使い始め調理や狩りをすることができるようになり、摂取する栄養が増えたことに伴って人間の脳は大きく進化をしました。

30万年前には狩猟採集をして暮らすためのコミュニティを形成し、単純な言葉を活用してお互いに危険を知らせたりコミュニティの結束を強めていました。

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5万年前には道具が洗練したことにより、さらに脳が進化し、情報を効率的に伝え、知識を広め、深め、次世代に伝えていくためのコミュニケーションを取るようになりました。

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1万2千年前には農業を始め、分業をするということが始まりました。そこでは依頼や指示、管理や統制のためのコミュニケーションを取ることができるようになっていきました。

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貯蓄した食料資源を守るためにコミュニティは強固なものとなり、組織運営が発展し、その中で階級や階層を形成するためのコミュニケーションが取られるようになりました。

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さらに農業生産に余剰が生まれたことから他のコミュニティとの間で交易が始まるとともに、都市と都市を結ぶネットワークが形成されていきました。

それまでは共同体内の仲間が対象だったコミュニケーションが、文化や慣習が違う相手と情報を交わすためのコミュニケーションへと変化をしていきました。

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17世紀、ガリレオやニュートンらによる古典力学の基礎の確立をはじめ、科学に大きな変革が起こりました。

その頃人々は、より高度な概念化や抽象化、複数の領域をまたぐ思考などを行うようになりました。

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続いて18世紀半ばから19世紀に起こった産業革命によって、人々はより効率的に物事を行うことに取り組みました。

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このように私たちは道具の発明や技術の発展に伴う生活の変化とともに、コミュニケーションも発達をさせてきました。

(実際には一部の地域に高度な文明が現れたり、どの時代にも思考やコミュニケーションが特に発達した人たちがいたことが予想されます。)

そして実は私たちは生まれてから大人になっていく間に、この進化のプロセスをなぞるように成長をしていきます。

私たちひとりひとりがたどるコミュニケーションの発達

生まれて間もない頃、人は自分自身の生存を守るための本能と一体となっています。

まだ自分と他者の区別もできていないので、コミュニケーションの手前の信号を発する状態と言ってもいいかもしれません。

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自分と他者の区別がついてくるとその中で自分の居場所を得るとともに、共同体の仲間とともに何かに取り組むということを行います。

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さらに、より難しいことを実現するために意思疎通や役割分担に取り組みます。

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所属する共同体が大きくなるにつれて、その中で他者との違いを明確にしたいという欲求が生まれ、勝ち負けを決めるようなコミュニケーションを発揮するようになります。

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さらに、文化や慣習を共有していない相手と出会うことに伴い、背景の違う相手と相互利益を得るために必要なコミュニケーションを身につけていきます。

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そして、一つの目標や正しい指針に向かって行動することを求められる共同体に身を置くことを通じて相手の意図や指示を正確に受け取ったり、他者にそれを伝えていくというコミュニケーションが鍛えられます。

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さらに、共同体の慣習を超え、個としての欲求や目標を実現することに関心が向くようになり、そのために必要なコミュニケションを身につけていきます。

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このように、人は、人類が辿ってきた長い歴史をなぞるように、人生を通じてコミュニケーションを発達させていくのです。

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この発達の順序は飛び越すことができず、現在のコミュニケーションのスタイルの限界にぶつかると、次のスタイルが発達していくことになります。

成長に伴ってコミュニケーション全体が書き換わるのではなく、それまで身につけたコミュニケーションに新たなスタイルが追加され、場面や状況・心境によって、意識もしくは無意識的に使い分けられることになります。


そんな中、この30年間で人類はさらに技術や道具を発展させ、その結果、私たちのライフスタイルやコミュニケーションを取り巻く環境にも大きな変化が起こっています。

この30年間で起こっていること

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この30年間を振り返ると、10年ごとに、私たちの暮らしを変えるような技術や道具が開発され、急速に普及しているということが分かります。

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電話の普及は、それまで同じ空間を共にしている相手としか交わすことのできなかった双方向でのコミュニケーションを離れた相手とも交わすことを可能にしました。

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さらに情報技術の発展やインターネットの普及により、コミュニケーションの量自体が爆発的に増加しました。

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スマートフォンの普及を機に、アプリケーションやメディアも増加し、様々な背景を持つ相手と様々な目的や方法でコミュニケーションを取るようになりました。

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そして今、リモートワークの拡大によって私たちはお互いに全く違った環境の中で、共有・理解されている情報も分からず、さらに文化や慣習と言った「なんとなく感じていたもの」も共有しない状態でコミュニケーションを取るという必要に迫られています。

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このような状況の中では、本来であればより多様な背景を持つ相手と意思疎通を図りながらより高度な課題に向き合っていくために、言葉の背景にあるものを細やかに受け取り、擦り合わせていくということが必要です。

しかし、私たちは大量のコミュニケーションや情報処理に追われ、より短く、記号化した言葉もしくは言葉を代替するものを使うことが増えています。

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その結果、効率が上がる一方で、すれ違いが起きたり、既存の慣習に沿った考えだけが共有され、実行されていくということも起こっています。

また、リモートワークの増加により、移動時間が少なくなり打ち合わせ等をこれまでより多く持つことができるようになると共に、空間的な制限がなくなり、大人数での打ち合わせや催しも増えています。

これらは一見、メリットが多いように思えますが、移動などの隙間時間で行われていた思考の整理ができず、頭がいっぱいになってしまったり、一人の相手とじっくりと向き合う時間が減り、相手や自分自身についての理解を深める機会が減ってしまっているという方も多いのではないのでしょうか。

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今、新しい様式のコミュニケーションに戸惑いや悩みを感じているのはとても自然なことです。

これまで人類が長い時間をかけて進化をしてきたのに対し、私たちは1世代前に開発した技術に適応するため急に変化をすることを迫られているのですから、それは私たちにとってとても負担が大きいことなのです。

この30年間で起こったコミュケーションの変化

改めてこの30年間で起こったコミュニケーションの大きな変化を振り返ってみましょう。

これまで、人は時間や空間・文化や慣習を共有している相手と、既存のものを改善するために五感を総動員してコミュニケーションを取ることが主でした。

このときに特に必要とされていたのは、相手の話していることを自分自身の過去の経験に照らし合わせて聞くダウンロード型コミュニケーションや、お互いの持っている情報や理論を出し合い、その中から正しいものを決めていくディベート型のコミュニケーションでした。

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一方、現在は時間も空間も文化も慣習も文脈も共有していない相手と、より高度な課題を解決することに向けて、視覚と聴覚から入る情報に頼ってコミュニケーションを交わさなければなりません。

このような状況の中で私たちはどのようなコミュニケーションを取ることが必要なのでしょうか?

今、私たちに必要なコミュニケーション

それは、お互いの考えや欲求の背景にあるものを知り、さらに新しいアイディアをつくっていくような、共感型・生成型・共創型のコミュニケーションです。

多様な文化や背景を持った相手と繋がりをつくり、合意形成をしていくためには、相手に対する共感を向けるコミュニケーションが必要ですが、そのためにまずは自分自身を深く知るための内省が必要です。

なぜなら、自分の考えや欲求の出所を自分自身で理解していなければ考えや欲求の違う他者の考えや欲求をフラットに受け止めることができないためです。

内省は一人でも行うことができますが、他者との対話や支援によって、人はより高度な内省能力を発揮することができます。

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さらに、内省や共感から一歩踏み出し、具体的な行動を起こしていくためには、新たなアイディアや考えを生み出すための生成的・共創的な対話が必要となります。

これらは、単に今あるお互いの考えや経験を共有し合うのではなく、そこに生まれている対話の場や、自分たちが身を置き、直面しているシステム全体から学びを得るような対話でもあります。

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このような内省的・共感的・生成的・共創的な対話を行なっていくことで、私たちは新しい生活様式やコミュニケーションの方式に適応し、さらなる意識の変容を起こし、現在直面している困難な課題を乗り越えていくことできるのです。

しかし、対話をするというのはそう簡単なことではありません。

簡単にできるのであれば、私たちはとっくに今ある課題を解決しているでしょう。

私たちが対話をすることができない理由

なぜ私たちは、対話をすることができないのでしょうか?

それは私たちが無意識に一体となっているものがあるためです。

それは、思い込みとも呼ばれ、「世界を見るメガネ」とも言い換えることができます。

赤いレンズの入ったメガネをかけると世界が赤く見えるように、私たちは様々なレンズの入ったメガネをかけ、そのメガネを通して世界を見ています。

そして、自分がかけているメガネに気づくことができないため、自分が見ている世界が「正しい」と思い込み、他者が見ている世界が違うものだという前提で話(対話)をすることができないのです。

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私たちは、大きく4種類のメガネをかけています。

1つ目は環境のメガネです。

オフィスで仕事をしているとき、私たちはそこに飛び交う何気ない会話や目に入るものから、無意識に様々なことを判断していました。

また、環境は心や身体の状態、関係性にも影響を与えています。

相手とは身を置く環境が違い、それによって受けている影響も違うのだということに私たちはなかなか気づくことができません。

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私たちがかけている2つ目のメガネは感情のメガネです。

例えば上司に対して「怖い」という感情を持っているとき、その人のことが「怖い上司」に見えます。

「怖い上司」がいるのではなく、自分自身に「怖い」という感情があるということに、人はなかなか気づくことができず「あの怖い上司をどうしたらいいだろう」と相手を変えることばかりを考えてしまいます。

どんな感情のメガネをかけているかによって、世界は全く違ったものに見えていますが、やはりそれにも人は自分ではなかなか気づくことができません。

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私たちがかけている3つ目のメガネは慣習のメガネです。

私たちは、生まれ育った社会や、長く身を置く組織の中ではその社会や組織が持っている特有の価値観と一体になっているということが多くあります。

良い・悪いの判断が実は慣習や文化から来ているものだということは、その社会や組織を離れて初めて気づくことができます。

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そして私たちがかけている4つ目のメガネは意識のメガネです。

コミュニケーションと同じように、私たちの意識そのものも経験を発達・変容をしていきます。

意識は「世界を捉える枠組み」とも言い換えることができます。

身体や心の状態、環境や関係性によっても意識の状態というのは変化します。

しかし、意識は自分自身とまさに一体になっているため、今、自分ではどんな枠組みを前提に世界を見ているのかを捉えることは非常に困難です。

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まずは自分を知ろう、そして対話を始めてみよう

私たちが対話をすることができない理由は、私たちがより少ないエネルギーで大量の情報を処理するために必要なメカニズムから来ているということもできます。

そんな中でも、対話をしていくためにはどうしたらいいのでしょうか?

まずは、対話ができない理由や人間のメカニズムについてより深く学ぶことです。

仮に新しいスキルを身につけたとしても、自分がどうして人の話を聴くことができないのか、対話を妨げているものは何かを知ることがなければ、いつまで経っても「分かっているけれどもできない」ということが起こるでしょう。

感情や慣習、意識について、まずはその存在を知ることで、それらを客観的に捉えることができるようになります。

自分が一体となっているものを客観的に捉えることができるようになれば、他者が一体となっているものも客観的に捉えることができるようになり、表面的な意見の違い等に惑わされず、深く対話をすることができるようになります。

そして何より大切なのは、実際に対話をするということです

座学だけで自動車の運転ができるようになるわけではないように、対話も対話について学ぶだけでできるようになるわけではありません。


まずは自分自身との対話、そして1対1での対話。

それが全ての対話の土台になります。

あなたはこの1週間、自分自身とどのくらい対話をしたでしょうか?

一番身近な人や大切な人と、どのくらい対話をしたでしょうか?


すぐには上手くいかなくても大丈夫です。

何万年もかけて起きてきた人類の進化のプロセスに今、私たちもいるのですから。

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まずは自分の心の声にじっくり耳を傾けてみてください。


駆け足で壮大な旅をしてきましたが、自分のかけているメガネの見つけ方や、今必要な対話について、また改めて詳しくご紹介していければと思います。


【参考】
人間の進化の歴史はこちら▼


【参考文献】
自我の発達:包容力を増してゆく9つの段階」(スザンヌ・クック=グロイター著 / 門林 奨訳 日本トランスパーソナル学会, 2018)


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