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猫の受難

昨日はまた受難の日だった。

わたしではなく、猫にとって。


一昨日、我が家にやってきた猫だったが、早速手痛い歓迎を受けた。

お昼過ぎ、敷地に住んでいる犬のトウフとバーニーがやってきた。
わたしたちの家の入り口のゲートを開けることができる犬たちは、「ヘイヘイヘイ!」と言わんばかりに意気揚々と外のリビングスペースにやってきた。わたしは彼らが大好きだ。やってきた彼らを撫でる。

と、バーニーが寝室の方を覗いた。あ、と思ったときは時すでに遅し。寝室の別の入り口から猫が一目散に走り出てきた。それをトウフが追う。必死の形相で逃げる猫は、リビングスペースの一角に置いてあるカウチの下を通り、そのまま敷地の外に飛び出して行った。それを見たトウフもゲートから出て猫が逃げた方角に走る。

あっという間の出来事だった。


ちょうど先日、ピーターさんと一緒に、いつかどこかに定住して犬と猫を飼うなら(ピーターさんはウサギも飼いたいらしい)犬はナワバリ意識が強いからまず猫を飼ってそれから犬を飼うのがいいだろうねという話をしたことを思い出す。

「新しくやってきた猫だから、仲良くしてね」なんてことは、犬には伝わらないのだ。

犬たちを外に追いやり、ゲートの鍵を閉めながらすっかり猫の肩を持っている自分に気づきそれが少しおかしい。


ついこの前まで、いや、今朝まではあんなにあの犬たちが大好きだったのに。

そのことを話すとピーターさんが言った。

「あの猫は自分で餌を獲れないみたいだから僕たちが守ってあげないといけないからね。もしあの猫が鳥を獲れるようになったら今度は僕たちは鳥を守ろうとするかもね」



せっかく始まろうとしていた猫との暮らしがあっけなく終わってしまったことに残念さを感じながら半日を過ごした後、ふと猫が走り込んだカウチの下を覗くとなんとそこに猫が丸まっていた。

カウチの下からそのまま外に飛び出したかと思っていたが、そのままカウチの下に留まっていたのだろうか。留まり続けているのは、外が怖くなったからだろうか。

動物はトラウマを持たないというけれど、さすがに犬に追いかけ回されたことはトラウマになっていそうだ。

そんなこんなで一日の残りの時間のほとんどをカウチの下で過ごし、夕食の時間には冷蔵庫の前にごはんをせがみに来た猫は、夜はまたベッドの上にやってきてピーターさんの足元に丸まった。

そして翌日(昨日)、カウチの下でくつろいでいた猫にまたしても突然悲劇が訪れた。

家の掃除にやってきたハウスキーパーさーんがカウチの下も掃除するために突然カウチの片側を持ち上げたのだ。「ここなら犬はやってこない」と安心していた猫にとって、突然屋根がなくなるのはまさに晴天の霹靂だったに違いない。

あ、と思ったときにはやはり遅かった。カウチの下から飛び出した猫はパニックになっているのか、わたしの横をすり抜け、ゲートの鉄格子の間もすり抜け、外に飛び出していった。


さすがの猫ももうカウチの下はトラウマになってしまったかもしれない。

半日経っても戻って来ず、これまた残念な気持ちになっていたが、夜、キッチンに行き振り返ると猫がいた。多少毛並みが乱れ、髭にも何かくっついている。

ツナ缶をごはんにまぜて差し出すとガツガツ食べた。

そして夜は今度はベッドの上のわたしの足元で寝た。

わたしも、左足にほのかなあたたかさを感じながら幸せな夜を過ごした。

昨年の夏、ギリシャの小さな島で世話をしていた子猫には情が移るといけないからと名前をつけなかったけれど、今回は名前をつけることにした。

大きな吊り目がエジプトの猫のようだからと、クレオパトラからとってクレオ。

猫に名前をつけて過ごしたら何が起こるのだろう。この場所から離れたくなくなるだろうか。

でもいつか必ず、ここを離れるときがやってくる。そのときは敷地の管理人のアルベルトさんに世話をお願いすることになるだろう。

わたしたちがいないならいないできっとどこかで逞しく生きていくのだろう。

そんなことを、カウチの下からチラリと見えるクレオのからだをみながら考えている。2022.2.15 Tue 9:02 Nicaragua Laguna de Apoyo

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【こちらは2022年6月よりawai Lagunaの活動へ移行します】 リフレクションジャーナルを綴ることにご関心がある方はawai Lagunaにご参加ください。 https://laguna.awai.space/about

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