マガジンのカバー画像

キオクのキロク

4
2018年8月〜2019年5月、徳島新聞朝刊内「キオクのキロク」というコーナーに掲載されたリレーコラムです。
運営しているクリエイター

記事一覧

他者を通して広がる世界

 先日、親戚数人で地元の居酒屋へ行った。平日の夜で田舎の町に人けはない。店はテーブルと座席が二つずつ、あとはカウンターに数席あるだけでこぢんまりとしている。私たちはテーブル席に通された。カウンターに常連らしき中高年の男性が数人座っている。

 しばらくすると、若い男女のグループが来店した。私たちの脇を過ぎて、奥の座敷に入って行く。また少し経つと幼い子を連れた夫婦がやって来て、背後のテーブルに座った

もっとみる
「仕方ない」と済ます加担

「仕方ない」と済ます加担

 海陽町のギャラリーで開催中の、海外体験記を集めた企画展に参加している。世代の違う10名以上の人々の、海外で見聞きしたことがずらりと並び、興味深い。

 これまでに何度か海外を旅した。記憶に残る旅はいくつかあるが、大学生の時にポーランドを訪れたことはよく覚えている。アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所の見学が目的だった。子どもの頃にアンネ・フランクの伝記を読んでから、いつか行ってみたいと思ってい

もっとみる

昔の祖母の日記めくり

 捜し物をしていると、昔の日記帳が出てきた。段ボールにメモや写真と一緒に無造作に突っ込まれていた。飽きっぽい私は日記を毎日書けるような人間ではない。見るとやはり1冊のノートを数年かけて使っている。

 綴られていたのは大学生の頃の日々だった。安定しない筆跡から、不安定な自我が垣間見える。展覧会や映画の半券が挟み込まれ、ノートの厚みが増している。その日記帳のことは記憶にあった。しかし書かれている出来

もっとみる

働き方変え「世間」と向き合う

 会社員としての働き方を変えることにした。勤務時間を短くし、休日を増やす。分泌に費やす時間を確保し、自分の生き方を考えるためである。

 数年前から小説を書き始め、応募した文学賞で佳作を受賞し、だからと言っていい小説が次々書けるはずがない。今書いている作品が日の目を見るか、むしろ完成するのか、そもそも何を書いているのかさえよく分からないのだ。

 新しい作家は続々と生まれ、私などすぐに紛れてしまう

もっとみる