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小松菜々子新作へ寄せて① 児玉北斗さんより

dBアソシエイト・アーティスト小松菜々子の新作『あわいにダンス』の上演へ向けて、縁のある方々より様々なことばをお寄せいただきました。
まずはダンサー・振付家の児玉北斗さんからのコメントをご紹介します。


「偶然のエリンギ」

縁あって小松さんとはこれまで色々な所で出会うことがあり、その度に楽しくダンスの話をしてきました。

彼女がヨーロッパでダンス行脚をしている途中で、僕の住んでいたストックホルムに立ち寄ってくれた事があります。約束をして出会ったとき、スーパーのビニール袋いっぱいに入った大量のエリンギを手土産にくれました。どうやら街の市場でトルコ人の野菜売りに売りつけられたらしく、突然の不条理を前に途方に暮れる様子が、なんだかシュールで印象に残っています。

なぜエリンギだったのか?おそらく偶然それがそこにあったからに過ぎないでしょう。なんの因果もなく、ただそこにたまたま存在していたもの同士が結びついた、そんな光景が未だに忘れられません。あり得ない組み合わせだったから奇跡的だったというか、日常も非日常も、人やモノの偶然の出会いから起きる無意味な出来事の連続なのかもしれないなーと、思ったりしました。

いきなり黒歴史を晒すみたいな事をして申し訳ないですが、この原稿を書くために色々思い出しているうち、あの出来事の偶然性と小松さんがダンスを探求することが分かちがたく結びついているような気がしてきたのです。たまたま起こる得体の知れない出来事を囲んで、私達は共にそれを理解しようとしたり、楽しもうとしたり、遠ざけようとしたりします。文化とはそういうところから生まれるものですが、ダンスもそんなプロセスと深い関係にあるのではないかと思うし、あの時の小松さんはそんな得体の知れない偶然性に巡り合うために旅をしていたのではないかと思うからです。

僕の知る限り、彼女は作品を作り始めた当初から、自らの存在を媒介してつながりを振り付ける事に関心を持ち続けています。そしてそれは決して優しく、頼れる、確固としたつながりではなく、傷や不安、ぎこちなさやおそれも含めた、不安定で形のないものであるように思います。でも、そのもやっとした何かを巡って、その場に居合わせた人たちが一緒に紡ぐ意識こそ小松さんにとって重要なのかもしれない。

あわいに起こるつながりの瞬間、そこに得体の知れない何かがふわっと浮かびゆっくり消えてゆく、そんな風景を一緒に見届ける様な作品になるんじゃないかな、と今回の公演にも期待しています。

児玉北斗



児玉北斗 |ダンサー/振付家/芸術文化観光専門職大学 講師
2001年よりダンサーとして国際的に活動、ヨーテボリオペラ・ダンスカンパニーなどに所属しマッツ・エックらの作品にて主要なパートを務めた。振付家としても『Trace(s)』(2017)、『Pure Core』(2020)、『Wound and Ground (β ver.)』(2022)などを発表。現在は芸術文化観光専門職大学(兵庫県豊岡市)の専任講師としてダンスや振付をめぐる研究・実践・教育に取り組んでいる。www.hokutokodama.com

公演情報

小松菜々子新作『あわいにダンス』
日程:2023年2月4日(土)・5日(日)
集合場所:アトリエKOMA(兵庫県神戸市長田区駒ケ林町2丁目2−3
詳細は下記の記事をご覧ください。


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