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3つの掌篇 補遺Ⅰ.幻想詩.城塞都市

補遺Ⅰ.幻想詩.城塞都市

見慣れた駅前通り、見慣れたビル街
夢の中ではこれが何時も迷路に変わる。

薔薇色の夕暮れ時、
地下通路を歩いて出口を目指すと、そこは三方が囲まれた袋小路。
服屋や飲食店が入り口をこちらに向け、壁の様に僕を囲む。

薔薇色の夕暮れ時、
ふと友人の住むアパートへ立ち寄ってみる。
そこは中庭と井戸を囲んだローマ式の集合住宅に変貌していた。

薔薇色の夕暮れ時、
ビルと高い塀が続く路地をひたすら歩き続けるが、何処にも辿り付く事は出来ない。
ビルや民家を通り抜け、地下道の三叉や十字を曲がり、やっと新しい道を見つける。

    僕はそして
  地中海やシルクロードの城塞都市を思い出す
  かつては友や家族を護り、敵を打ち倒すのに
  迷路や地下道、袋小路は住人の鎧であり剣であった
  数々の戦いと悲劇が、都市に巧妙さと複雑さを与えた
    僕は潮風の香りを、焼けた沙の香りを思い出す

僕が夢で迷い込んだ街には、常に誰も存在しない。
護られるべき人々を失っても、都市は迷路である事を捨てはしなかった。

    僕はそして
  夢の中で佇みながら現実の街を思い出す
  狡知な街は僕の周りでは死んでしまったのだろうか?
  全てショーケースや陳列棚に並べられる美術品へと変わってしまったのか?
  それは違う、武具が姿を変えたように、城塞も姿を変えた
  現実の街を歩き、角を曲がり、坂道を上る時
    僕は潮風の香りを、焼けた沙の香りを思い出す

夢の中で僕は、
ローマ時代や十字軍の時代に居ると、変異した街並みを見てそう感じる。
かつての人々も、この巧妙な揺り籠の中で一生を終えていったに違いない。

    迷路の都市はかつての都市の姿を取り戻し、人々と寄り添おうとただ願う
  しかし都市の意思とは無関係に、城塞の方は姿を変えてしまった
    かつて僕を護っていた高く複雑な城壁や堡塁は
  何時の頃からか、時計仕掛けの剣と見分けが付かなくなってしまった
    今は誰も、都市にかつての役目を求めない

    だから、
また今夜も僕は都市の見た夢に迷い込み、都市の静寂を聴くのだろう。

by 拓也◆mOrYeBoQbw(初出2015.11.05)

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