「夜明けの祈り」
原題: Les innocentes
監督:アンヌ・フォンテーヌ
制作国:フランス・ポーランド
製作年・上映時間:2016年 115min
キャスト:ルー・ドゥ・ラージュ、アガタ・ブゼク、アガタ・クレシャ
予告案内を簡単に伝えるなら第二次世界大戦においてポーランドの修道院で起こったソ連兵の鬼畜行為による悲しみから修道女らを救うフランス医師の話だ。
映画館へ入る途中すれ違った人(この映画を観終わった人)が「…クリスチャンが見る映画よね。解らないわ。」と不服を立ててらしたが、そもそも予告の時点で宗教要素が多いことは解っていた筈だが。
この映画では単に宗教ばかりではなく「ポーランド」が当時置かれた立場も、つまり、他国が助けたくとも素直に救いを手を差し伸べられない状況を作っていることを知っていなくてはならない。
第二次世界大戦では東西からドイツとソ連に侵攻される。そうした大戦中もナチスドイツに対する抵抗を続け、ソ連軍の支援で「共産政権」が成立。
作品の中でシスターが「私達(カトリック)はこの先どうなるの?」という心配は共産圏でカトリックが生き残られるか不安だったからだ。
戦後は社会主義国家(*20世紀末に「連帯」による革命で自由化される)ながら戦前の通りカトリック教会はナチスの支配と戦った精神をそのままに自由を求める民衆の側に立ち存続する。
赤十字で働きながらもポーランド人は助けなくて良いと同僚に言われることはこうした社会情勢がある。それでも、危険をかい潜って修道院を救おうとマチルダは激務の中を奔走する。
そもそもポーランドに侵攻したソ連軍が何故修道院の女性らを陵辱するのか。ここには憤りしかない。人間としてありえない。その蛮行は三日間も続く。結果、幾人かのシスターらの中に命が宿ることになる。
修道院に誓願する時点で「神と婚姻する」に近い心情で世俗を捨て祈りの世界に入った女性らだ。貞節を当然求められていたが、これは時代的に日本でも修道女ではない一般女性もまたそうであった筈だ。問題は、彼女らが女性の上に「修道女」であったこと。
カトリックは中絶と自殺は認めない。では、彼女たちはどう生きるのか。
一旦は世俗を切った女性らが「本人の意志ではなく」俗に引き込まれ葛藤する中にマチルダが入っていく。
ポーランド側の医師に助けを求めた場合、この陵辱の件が世間に知られ修道院の存続に関わることは院長でなくとも皆が解っていた。中絶も出来ず胎児は修道服の中で育つ。彼女らはどんなにか辛かったことだろう。
妊娠に伴うことを助けるマチルダだけがこの映画で光るのではなく、シスターマリアをはじめ、シスター一人ひとりが問題に直面し、苦悩の中決断していく姿は同様に光を放っていた、ベールを被り髪を完全に隠した修道服姿であってもその個性が解るほど。
数年前にジュディ・デンチの「あなたを抱きしめる日まで」を観た。(カトリック国のアイルランドでは未婚で出産した場合に母子が強制的に別れさせられる話。)この映画を観るまではそのようなことが行われていた史実も知らなかった。歴史の暗部ではある。一般女性でさえ厳しい世間があったことを踏まえるとこの当時のシスターらの苦しみは尋常では無いことが解る。
私たちは、まだまだ閉ざされた歴史の暗部を全て知っていない。
★★★☆