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その刑事はあまりにも ―きたがわ翔『刑事が一匹…』―

 私は現在、新作長編小説を執筆しているが、それと並行して重要人物のキャラクタードールを製作中である。この小説は女性がマジョリティーの世界観のものであり、ほとんどの女性たちは「男の七光り」には頼れない非情な世界である。そのような世界観の物語に欠かせないのが、いわゆる「ダークヒロイン」である。そのための参考資料として、私は『マッド・マックス 怒りのデスロード』や『肉体の門』、『キル・ビル』などの映画をYouTubeで観ている。
 もちろん、映像作品だけでは全然足りない。そんな私が「ダークヒロイン」目当てで購入した漫画の一つが、きたがわ翔氏の警察漫画『刑事デカが一匹…』(講談社)である。他には山崎紗也夏氏の『サイレーン』などがあるが、いずれもモーニング誌に連載されていたものである。その『刑事が一匹…』に特筆すべき「ダークヒロイン」が登場するのだが、彼女についての物語は全7巻のうち4巻まで収録されている。

 問題の「牙の女王」めい子は、若い頃の柴咲コウさんそっくりだと私は思った。そういえば、宮脇明子氏の漫画『金と銀のカノン』という昔の漫画のヒロインも柴咲さんに似ていたような気がするが、あちらのヒロインは『ジョジョの奇妙な冒険』第一部のディオの女性版みたいな立場だった。その『金と銀のカノン』もいずれ再読して感想を書いていく。こうして、芋づる式に読みたい本は増えていくのね。
「牙の女王」めい子は、『サイレーン』の橘カラよりもさらにレズビアニズム的な執着で、ターゲットを追い詰める。めい子とカラの類似は、やはり同じ掲載誌だからこそのものなのだろうか? 『金と銀のカノン』だって、『ジョジョ』と同じく集英社が発行している雑誌に掲載されていたのだから、社内で編集者同士の情報交換があってもおかしくない。しかし、めい子のターゲットに対する執着は多分、カラとは違う動機なのだろうと、私は思った。そして、一見彼女らとは無関係そうな昔の別の事件との接点がほのめかされる。
 私は『サイレーン』のカラが何となく『ベルセルク』のグリフィスに似ているように思ったが、この『刑事が一匹』の主人公高円寺はガッツに似ている。それはさておき、『蒼天航路』最終回があるモーニング誌に載っている回がこの単行本に収録されているが、めい子の美貌はカラとは違って生まれつきのもののようだ。現時点では、めい子は誰かの身代わりではないようだが…?
 当初の目的「牙の女王」編読了。山崎紗也夏氏の『サイレーン』のカラは、ある別の誰かに成り代わった存在だったが、実は「牙の女王」めい子もある意味で誰かの成り代わりだった。『サイレーン』の猪熊は最後までカラという人間を理解出来なかったが(それゆえに、彼女がカラに「罪と向き合えば変われる」と言ったのはある意味的外れだったようだが、カラの心理に対して微妙な影響をもたらしたようだ)、『刑事が一匹』のめい子とアイコは、『サイレーン』の光と闇のヒロインたちとは違って、本質的にはむしろ近しい者同士だった。めい子はカラの原型か?

 女たちのキャットファイト「牙の女王」編の次は、男たちのドッグファイト「裏金を生む英雄」編。敵側のイケメンヤクザは「牙の女王」めい子と同じく肉食獣のイメージがあるが、めい子のような「病み」は感じられない。それはさておき、このイケメンヤクザ某氏は主人公の先輩の幼なじみだというが、そうすると見かけより年齢が上なのか? そういえば、『サイレーン』のカラも外見が実年齢よりも若かったな。カラ、めい子、そして『サイコドクター』シリーズの主人公の妹はいずれも肉食獣のイメージだが、やはり草食系悪役は描くのが難しいのかな?
「裏金を生む英雄」編後半。私は以前読んだ『サイレーン』の橘カラを見て『ベルセルク』のグリフィスを女にしたような雰囲気を感じたが、『刑事が一匹』のこのシリーズのイケメンヤクザは、雰囲気よりもむしろ立場や人間関係がグリフィスに似ている。あたしゃ、他作品と比べてこそフィクションは面白いと思うので、某ブログのコメント欄で某『ファイブスター物語』ファンの方から「他作品と比較されても困ります!」と非難されても、あたしゃその非難の方がよっぽど困るよ。私がジョジョファンなら、その人に「ジョジョハラ」していたかもしれない。

 読了。全編読み通してみると、友情の話が多い。「牙の女王」編は友情というよりは「百合」の香りがするが、全体的には恋愛よりも友情や家族愛の比率の方が多い。別の漫画家さんの某漫画では、最後に主人公が敵に拳銃で撃たれて即死するバッドエンドだったが、『刑事が一匹』の最後は意外なハッピーエンドだった。この漫画は「ダークヒロイン」だけでなく「友情」を描写するための参考資料として有用だった。

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